ある日突然、「スカウト」が現れる

本稿を読んでいる方の中に、公安捜査員を目指す人がいるかもしれない。実際にどうすればなれるのか?

実は、これといった試験があるわけではない。

一般企業における人事異動のように、辞令を受けて配属される。

そして、公安警察に配属されるには、おもに2パターンがあると私は思っている。

1つ目は、警察学校で上位の成績を収めた優秀な人材。いわゆるエリートと呼ばれる人が配属されるパターン。

もう1つは、何らかの才能に特化した人材が配属されるパターンである。

敬礼する日本の警官
写真=iStock.com/akiyoko
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私の場合は後者のパターンだと思われる。学生時代に予備校などで講師をするくらい英語ができたので、おそらくそのスキルが目に留まったのだろう。

ある日突然、「スカウト」が私の目の前に現れた。

このスカウトに、私のことを調べ上げた詳細な資料を前に、配属の決定を告げられた。それは有無を言わさぬ調子で、端から私に選択の余地などない。

もっとも私自身、辞退するつもりはなかった。そもそも、ここで配属を拒否するような人物は、最初から、あるいは調査途中の段階で選考から外されるようになっている。

私自身が班長(オペレーションの指揮官)を務めていた時も、同様の手法で新人を採用していた。

ただ、いくら警察学校で優秀な成績を収めていても、いくら特殊なスキルを持っていたとしても、公安はそれだけで通用する甘い世界ではない。

ちなみに私の警察人生は二十数年にわたったが、そのうちの半分以上を公安部、それも外事警察に携わった。これは非常に稀なケースらしい。

職務の性質上、癒着や馴れ合いを防ぐ必要があるため、1つの部署に長く在籍させないというのが公安の考え方だ。にもかかわらず、私がなぜそこまで長くいられたのかは、今もって謎である。

重要な資質は「社交性」

では公安捜査員に必要な資質とは何か?

それは「社交性」である、と私は思っている。

意外に思った方も多いだろう。公安というと陰でコソコソ嗅ぎ回っている印象をもたれがちで、社交性とは程遠いイメージだからだ。

しかし、実際は営業職などと同じく、社交性が重要な資質なのである。

情報は相手と信頼関係を築けないともらうことはできない。その相手も、職業や肩書、職種などはさまざまだ。そうした相手との人間関係をスムーズに築く上で大事なのが社交性なのである。

笑顔を絶やさず、常に相手のことを思いやり、懐に入っていくようにする。時には無理な頼みごとも聞いてやる。

そうしたことを積み重ねていくうちに、相手は意気に感じて、重要な情報をくれるようになるのだ。

実は私はいささか社交性に欠けるところがあったので、努力と工夫でそれを補おうとした。

まず、警察内の自分のセクションだけでなく、他のセクションの人とも積極的にコミュニケーションを図り、人脈を広げることに努めた。

それは後に大使館の担当になってからも同じで、一日に一回は外交官の誰かと電話で連絡を取り合い、一週間に一回は大使に直接会うようにしていた。

人は頻繁に連絡をくれる者に心を許すものである。

それは、諜報活動のみならず、すべての人間関係においていえることだろう。