一方、ロシアはASEAN諸国の石油需要を満たすだけの供給余力を有していない。地理的には、沿海州にあるナホトカの石油積出港(コズミノ港)からの輸出が現実的となる。しかしコズミノ港から出荷される石油製品は、LLC RN ナホトカプロダクト社が精製した重油(Mazut M100)が主力で、軽油の出荷は限定的だという問題がある。

そもそも供給できる石油製品が限られることに加えて、ロシア国内での精製能力不足の問題もある。ロシアの製油所は、そもそも欧米日からの経済・金融制裁の結果、老朽設備の維持・更新に要するヒト・モノ・カネを調達できなくなっている。加えて、ウクライナの長距離ドローンによる攻撃を受けて、製油所の稼働率が低下している。

“蜜月関係”には程遠い

輸送手段の問題もある。ロシアからASEAN諸国に石油製品を送るためにはタンカーが必要だが、そのタンカーをどう手配するかという問題は非常に大きい。世界的にタンカー需要が逼迫しているし、またロシア産の石油製品の輸送には主要国の保険は適用されないため、相応のリスクを伴う。輸送能力の向上もまた、大きな課題である。

比大統領は2026年6月18日、ロシアとの貿易・経済協力のさらなる強化、特にエネルギーや食糧安全保障の分野において、両国間の協力には大きな可能性があると強調した
比大統領は2026年6月18日、ロシアとの貿易・経済協力のさらなる強化、特にエネルギーや食糧安全保障の分野において、両国間の協力には大きな可能性があると強調した(写真=フィリピン大統領広報室/PD-PhilippinesGov/ウィキメディアコモンズ

つまり、ASEAN諸国に石油製品をただちに供給できるだけの余力を、ロシアは技術的にも物理的にも有していない。ASEAN諸国もそれは承知で、長期的な観点からロシアに接近しているとは考えられる。とはいえ、ロシアからASEAN諸国向けの石油製品の輸出が増えるまでには、それこそ10年単位の歳月を要するのではないだろうか。

ポイントとなるのは、貿易関係の濃淡は、やはり経済的な理由に大きく左右されるということなのだろう。そもそもロシアとASEAN諸国との間で貿易関係が希薄だったのは、双方の需給が技術的にも物理的にもマッチしていなかったためだ。そのミスマッチを解消できるなら貿易は拡大するが、それが本当に可能かどうかはまた話が別である。

原油にはその性質に応じ、軽質、重質、スウィート、サワーと分類がなされる。それに応じて、出来上がる石油製品も変化する。石油やガスの調達の多角化は重要であるが、だからといって産地や油質の制約も大きい。言うは易く行うは難しの世界であるため、ロシアがASEAN諸国と蜜月関係を築けるまでの道のりは遠いと言わざるを得ない。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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