同期間のロシアの貿易総額は6815億米ドルだったから、ASEAN5向けの割合はわずか2%程度に過ぎない。一方、中国向けの輸出入はロシアの貿易の3割強を占める規模にまで拡大しているから、ロシアにとってASEANとの貿易は、拡大の余地が大きいとも言えるし、そもそも貿易の主な対象ではなかったという事実を浮き彫りにする。
また国別にはばらつきがあり、最も多いベトナムで60億米ドル程度だが、最も少ないフィリピンでは3億米ドル程度に過ぎない。またマレーシアを除く4カ国に関しては、ロシアの輸入超過であるため、ASEAN5カ国全体でも貿易赤字となる。ロシアからすると、ASEAN諸国は外貨の獲得先というより、外貨の流出先だったというわけだ。
貿易はまだまだ限定的
ロシアから石油やガスの輸出が増えれば、ロシアにとってASEAN諸国は外貨流出先から外貨獲得先に一転する。ASEAN各国から、流動性の高い人民元資金を吸収できればロシアにとって好都合だ。ルーブル決済の拡大も目論みたいところだが、ロシアとの貿易にしか用いることができないルーブルでASEAN諸国が決済に応じるかは謎だ。
次に、ASEAN側からロシアとの貿易の位置づけを確認しよう(図表2)。ASEAN5全体の対ロ貿易依存度は、2023年から2025年の平均値で輸出は0.5%、輸入は0.4%と非常に低かった(図表2)。最も貿易依存度が高いインドネシアでも、輸出で0.6%、輸入で1.0%だ。ASEANにとっても対ロ貿易の位置づけは限定的だったのである。
限定的だからこそ拡大の余地があると考えるか、限定的なのはそもそもその余地がなかったからだと考えるのかで、評価は著しく変わる。この点に関しては、そもそも経済的にペイする関係でないから、ロシアとASEANの貿易は限定的だったと考える方が自然ではないか。それを政治的な利害だけで乗り越えられるとは考えにくいのである。
石油はあるのに、ASEANに売れない事情
ASEAN5カ国のうち、インドネシアとマレーシア、ベトナムは産油国だ。それにマレーシアでは天然ガスも採れる。ASEANには天然ガス大国として知られるブルネイも存在する。そのASEAN諸国がなぜ中東から石油やガスを輸入し、ロシアにまで接近するのか。要するに、ASEAN諸国は、一部の国を除き、精油能力に乏しいのである。
ASEAN諸国の精油能力はシンガポールに集中している。そのシンガポールだけではASEAN諸国の石油製品需要を賄えないため、ASEAN諸国は第三国に原油を輸出し、精油された石油製品を輸入せざるを得ない構造にある。原油が採れても石油にはできないわけだ。喫緊、ASEAN諸国が要するものは、原油ではなく石油なのである。

