ステップ3:視線を戻し、「次の1つ」だけ見る

最後に、視線を顔を上げて前に向け、「次にやるべきたった1つのこと」だけに意識を絞ります。サッカーなら「次のパス」。テストなら「次の1問」。発表会なら「次の1小節」。

過ぎたミスでも、まだ起きていない未来でもなく、「今できる小さな1つ」に集中する。これで心の信号機は青へ戻りはじめます。

この①→②→③は、10秒でもできます。試合中、テスト中、本番中、いつでも、何度でも。中村選手がリードされた直後にも冷静にゴール前へ向かえたのは、こうした立て直しの習慣があるからだと考えられます。

同点ゴールに学ぶ「自己効力感」の育て方

中村選手の同点ゴールは、得意のカットインシュート、つまり「何百回も練習してきた、自分の必殺パターン」でした。

心理学者バンデューラ(Bandura)は、「自分にはこれができる、という確信」を自己効力感(セルフエフィカシー)と名づけました。研究では、この自己効力感が高い人ほどスポーツの成績が良いという関係(多くの研究をまとめると、成績との相関はおよそ0.38)が報告されています(Zagórska & Guszkowska,2013)(*8)。自己効力感は、いろいろな分野で成績を予測する大事なカギだとされています(Shipherd,2019)(*9)

では、この「できる確信」はどこから生まれるのか。一番強い源は、「自分で実際にできた」という成功体験(マスタリー体験)です。中村選手のあの一撃は、まぐれではなく、練習で積み上げた成功体験が、大舞台で出ただけなのです。

しかも、自己効力感が高い人は、ドキドキや緊張を「邪魔なもの」ではなく「力になるもの」として受け取りやすいことも分かっています(Shipherd,2019)(*9)。同じ緊張でも、受け取り方が変わるのですね。

だから、ジュニア選手も演奏者も、小さな「できた!」を毎日コツコツ積むことが、本番の強さに直結します。「今日はここまでできた」を一つずつ確認していきましょう。