ジャネットの存在が消された?

マイケルだけでなく、家族の描き方にも疑問の声が上がっている。ジャクソン兄弟はエキストラ同然の扱い、マイケルを虐待する父のジョセフが悪役すぎる一方、母キャサリンは聖女すぎる、といった具合だ。また、伝記映画化権の絡みもあるのかもしれないが、妹のジャネットは最後まで不在のままだ。

全体として、アメリカの映画批評サイト「ロッテントマト」の評価に見られるように (観客の評価数字が96%なのに対し、批評家は38%) 、専門家の間で不評が目立つ。

ただ、こうした海外の批評があまり触れていない点もある。白人アーティストの曲しか流さないという、人種隔離政策を思わせるようなMTVの方針を、マイケルが一変させたというエピソードが『Michael/マイケル』には出てくる。しかし彼がこうして白人優位社会の重い扉を開けたことに言及する批評は少ない。

マイケルが世界で受け入れられた背景には、人種の壁を打ち破るほどの実力を持ち合わせていたことへの幅広い支持があったはずだ。彼の功績がなければ、今日のBTSやブルーノ・マーズの成功もなかっただろう。特に日本ではマイケルの全盛期は、アメリカのジャパン・バッシングが強かった時代と重なっており、そうした中で圧倒的な存在感を示した黒人スターに喝采を贈ったという面もあったかもしれない。

私がアメリカにいた頃、既にマイケルの言動は強い批判を受けていたが、それを伝える白人レポーターらの表情の中に、何か隠せない興奮があるようにも感じていた。

『Michael/マイケル』でマイケルを演じた甥のジャファー・ジャクソン(左から2人目)、マイケルの少年時代を演じたジュリアーノ・クルー・ヴァルディ(右から2人目)、2025年4月10日、ベルリン
写真提供=©Nicole Kubelka/Future-Image via ZUMA Press/共同通信イメージズ
『Michael/マイケル』でマイケルを演じた甥のジャファー・ジャクソン(左から2人目)、マイケルの少年時代を演じたジュリアーノ・クルー・ヴァルディ(右から2人目)、2025年4月10日、ベルリン

キーパーソンのブランカ弁護士

とはいえ、『Michael/マイケル』自体に白人と黒人の確執にフォーカスする気はなく、むしろ弁護士と警備主任の白人男性2人が、横暴な黒人の父親からマイケルを守る物語になっている。この弁護士ジョン・ブランカ(写真右から1人目のマイルズ・テラーが演じる)は『Michael/マイケル』のプロデューサーに名を連ねており、マイケルの遺産管理人の1人でもある。

ニューヨーク・タイムズ・マガジンにマーク・ビネリが書いた記事によると、ブランカは、破産寸前だったマイケルが2009年に急死した後、資産の差し押さえを阻止して遺産を立て直し、マイケルというブランドの収益力を高めてきた立役者だ。ビネリは長文の税務裁判判決文を読み込み、セレブやブランドの消費者訴求力を測る指標(Qスコア)において、亡くなる頃のマイケルはもはやスコアさえ記録になく、彼のTシャツやポスターを置く店は見当たらないようなありさまだった、という知的財産管理会社の話を伝えている。開催予定だったロンドン公演「THIS IS IT」のチケットも、完売はしたものの企業スポンサーの確保は難しい状況だったという。

マイケルのブランド力が凋落したのは、当然ながら児童性虐待などの容疑で2003年に逮捕されたからだった。裁判は2005年、半年にわたって行われ過熱報道が続いた。検察側と弁護側双方のインタビューを通じてこの裁判を追ったのが、冒頭で触れた『マイケル・ジャクソン:ザ・バーディクト』だ。陪審員や記者、伝記作家、心理学者、友人、ファンらのインタビューも交えた3部構成になっている。