適正株価は公募価格の「半値以下」

株価の先行きについても、楽観はできない。フォーチュンによると、投資調査会社モーニングスターは上場直前にスペースXの適正株価を1株約63ドル(約1万円)と試算した。公募価格135ドル(約2万2000円)のじつに半値以下である。

そもそもスペースX自体、いまだ黒字化を果たしていない。昨年の売上高は約190億ドル(約3兆円)にとどまる。IPO直後の従業員には一般にロックアップ期間と呼ばれる数カ月間の売却制限も課されるため、仮に株価が下落すれば、紙の上の資産が銀行口座に届く前に大きな損失を被りかねない。

こうしたリスクを前に、従業員たちはすでに独自の防衛策を講じ始めている。米ビジネスニュース専門局のCNBCの報道によると、資産総額10億〜50億ドル(約1600億〜8000億円)規模のスペースX従業員100人以上が結束し、登録投資顧問会社コレオと業界標準を下回る手数料で資産運用契約を結んだ。個人資産に基づく料金設定が通例の業界にあって、集団交渉で手数料を引き下げるのは異例の試みだ。

資産運用会社クリエイティブ・プランニングの最高投資責任者、ジェイミー・バットマーによれば、従業員の多くは保有資産の最大90%がスペースX株に集中しているという。分散投資のセオリーからすれば、危ういまでの大きな偏りだ。

全米屈指の貧困都市に生じる異変

スペースXのIPOが生んだもう一つの影の面が、同社のお膝元で広がりつつある富の集中だ。

スペースXのロケット打ち上げ・開発拠点であるスターベースを擁する、テキサス州ブラウンズビル。3000人を超えるスペースX従業員が勤務するこの街は、全米屈指の貧困都市でもある。政府統計によると、世帯収入の中央値は全米平均を約3分の1下回る。

テキサス州道4号線に隣接する「スターベース」の看板
テキサス州道4号線に隣接する「スターベース」の看板(写真=Jenny Hautmann/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

地元のファイナンシャルプランナー、マイケル・リマス氏は欧州ニュース専門局のユーロニュースの取材に対し、「スペースXは上層部から現場従業員まで幅広く(株式の)オプションを付与してきた。この地域では特異なことだ」と述べる。全米有数の低所得地域に、ストックオプションという異質な富の種がまかれた格好だ。

同社従業員の購買力を受けてか、いま、ブラウンズビルの住宅市場は過熱している。複数の不動産業者やエコノミストによれば、ブラウンズビルとハーリンゲンを中心とする都市圏の住宅価格中央値は2020年以降およそ25%跳ね上がり、約18万5000ドル(約2960万円)から約23万3000ドル(約3730万円)に達した。高収入のスペースX従業員が地元の不動産を次々と手中に収めるなか、長年つつましく暮らしてきた住民は、暮らしへの影響をひしひしと感じている。

もっとも、家族が6代にわたってこの地に根を下ろしてきたブラウンズビルのジョン・コーウェン市長は、「投資先として知られる都市になることは素晴らしい」と米メディアに語るなど、あくまで前向きだ。