36時間ぶっ通し勤務に耐えた従業員
ストックオプションとRSUに加えて、スペースXは従業員株式購入制度(ESPP)を用意している。こちらは従業員が自主的に給与の一部を天引きで積み立てることで、割安な価格で自社株を買える仕組みだ。日本の多くの上場企業で従業員が利用できる持株会の制度があるが、これに似た存在だ。
なお上場後は、ストックオプション・RSU・ESPPで取得した株には「ロックアップ」と呼ばれる売却制限がかかり、一定期間を経ることで売ることができる株数が徐々に増えていく。
創業期の企業は、給与に回す現金が乏しいことが多い。代わりにこのように株式で報いる手法は、アメリカのスタートアップで広く採用されている。
こうした充実の待遇を受けるスペースXの従業員たちだが、決して安穏とした日々を送ってきた訳ではない。彼らが生き抜いてきたのは、過酷を極める労働文化だった。
米ビジネスニュースサイトのビジネス・インサイダーは、宇宙ジャーナリストのエリック・バーガー氏の新著『Reentry』の一節を紹介。それによると、スペースXの従業員は36時間ぶっ通しの勤務や、机の下での仮眠、トイレに行く暇もなく日常的にバケツで用を足すなど、過酷な勤務に耐えてきたという。マスク氏自身もテスラの苦境期にはデスクの下で眠ったとされており、ハードに働く文化は彼の企業では当然といったところだろう。
「長く続かない」と言われた会社に賭けた
だが、適正な見返りがあったからこそ、従業員たちは会社の成長に賭け、苦境に耐えた。オンライン職業訓練スタートアップ、スキルキャットのルチル・シャーCEOはフォーチュンに対し、「優秀な溶接工や機械工を見つけるのはソフトウェア開発者と同じくらい難しい。深刻な人手不足を考えればなおさらで、株式を付与するのは理にかなっている」と述べている。
株式報酬制度は成功すれば見返りが大きい一方、会社自体が躓けば、見込んでいた報酬が紙切れになるリスクもはらむ。
そのリスクを最も劇的な形で呑んだ従業員の一人が、元スペースX打ち上げエンジニアのトレバー・ハイズ氏(37)だ。
フロリダ州ココア出身。母は家具販売員、父はケープカナベラルのケネディ宇宙センターで配管工として働く家庭に育った。2011年、大学を卒業したハイズ氏に、両親は名門ゼネラル・エレクトリック(GE)への就職を強く勧めた。だが彼は、在学中のインターンで惚れ込んだスペースXに残る道を選ぶ。
ハイズ氏はニューヨーク・タイムズの取材に対し、「当時のスペースXは、実績もないスタートアップでした。長くは続かないだろうという見方が非常に強かったのです」と振り返る。親が心配するのも、無理はなかった。

