「時給4500円」から億万長者に
2020年、エルナンデス氏は転機を迎えた。スペースXの評価額が360億ドル(約5兆7700億円)に達したのを機に保有株の一部を売却し、テキサス州内に不動産を購入した。妻とともに小規模な不動産事業も立ち上げた。帳簿上の数字でしかなかった持ち株を、形ある資産に変えたのだった。
手元に残した約6500株は、ウォール・ストリート・ジャーナルによると公募価格ベースで約88万ドル(約1億4000万円)相当。上場初日の終値で換算すれば、総額約104万ドル(約1億6700万円)に達している。時給28ドルで働き始めた溶接工が、100万ドルの大台を超える資産を手にしたことになる。
「おかげで一生、安泰な立場に置いてもらえました」。スペースXで約10年間ロケットを発射台に据えるための構造物や固定設備を溶接し続け、昨年退社したエルナンデス氏はそう語る。
とはいえ、悠々自適の暮らしを選んだわけではない。現在はアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙開発企業ブルーオリジンのロケット発射施設で、変わらず溶接工として現場に立っている。
「成功確率10%未満」の会社が選んだ秘策
エルナンデス氏に限った話ではない。ウォール・ストリート・ジャーナルの取材に応じた他の元従業員たちも、多くは突如舞い込んできた巨額の富を、堅実な使い道に充てているという。売却益を配偶者の学生ローンの返済や両親への別荘の購入に充てたり、長年の夢だった不妊治療を始めたりするほか、かねて温めていた事業の立ち上げ資金に投じるなど、意義ある使い方を見いだしているようだ。
エルナンデス氏のような現場の労働者までもが、一夜にして億万長者になれたのはなぜか。それを可能にしたのが、スペースXの株式報酬制度だ。
マスク氏自身、ナスダックの上場セレモニーで、「(カリフォルニア州)エル・セグンドの倉庫で始めたあの小さな会社が、史上最大のIPOで上場するとは信じがたい。はっきり言って、成功する確率は10%未満だと思っていた」と振り返った。米宇宙・天文ニュースサイトのスペース・ドットコムが伝えている。
成功確率10%未満。創業者自身がそう認める会社が、人材をつなぎとめるために用意したのが、ストックオプションだった。将来、あらかじめ決められた価格で自社株を購入できる権利であり、従業員の努力で会社が大きく成長するほど見返りが大きくなる。
加えて、勤続年数に応じて段階的に自分のものになる制限付き株式ユニット(RSU)の制度がある。報酬の一部が株式で支給されるもので、従業員側の出費はない。

