12年間働いて築いた21億円

打ち上げエンジニアとして12年。ハイズ氏はその間に、株式報酬を堅実に増やし続け、その数を10万株超にまで伸ばしていた。控えめに公募価格ベースで換算しても、1350万ドル(約21億6000万円)となる。

彼は今、第一線を退いてセミリタイア生活を送る。本人も、「この規模感は馬鹿げている」と驚きを隠さない。皮肉なことに、親が勧めたGEは、今や時価総額でスペースXのおよそ5分の1にとどまる。

これまでに結婚式の費用や住宅の頭金に充てるため株の一部こそ売却したものの、大半は手放さなかった。2023年の退社後は不動産事業にも投資し、アーティストである妻とともにファイナンシャルプランナーを雇い、資産の一部を寄付するための財団設立も進めているという。

かつて息子の選択に反対した両親は、どう思っているのか。ハイズ氏は、「とても誇りに思ってくれています」とニューヨーク・タイムズに語った。

末端の社員まで行き渡った手厚い恩恵

株式報酬で手にした「第2の人生」は、人によってまったく違う。

元スペースXエンジニアのJ・アンドレ・ラヴォワ氏(63)は5年前、北イタリアの小さな町ポンテッバに移り住み、ホテルを1軒買い取った。在籍時に付与された株式の評価額は、公募価格ベースで2800万ドル(約45億円)を超える。

ポンテッバ(イタリア)
ポンテッバ(イタリア)(写真=Celsius1/CC-BY-SA-3.0-migrated-with-disclaimers/Wikimedia Commons

ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、資金の用途は自身のホテルの改装資金にとどまらない。町全体の暖房を薪からよりクリーンな暖房方法に切り替える支援ができないか、構想を練っているという。

「ただただ銀行に大金を残して死んでいくのはご免だ」。同氏が異国の町に私財を注ぎ込むのは、ひとえにこの思いからだ。2015年の退社以来、年々急騰を続ける株価を目の当たりにしてきた。「あまりに急激に上がるから、人生設計が狂い続けている」と、同氏は嬉しい悲鳴を上げる。

一方、スペースXで船舶のエンジニアリング・オフィサーを務めたマリエリン・マッセルマン氏(27)が見据えるのは、もっと堅実な道だ。

2022年に入社し、フロリダ沖に落下したロケット部品を海中から回収する船舶で2年間勤務した。報酬として付与された株式に加え、リスクを承知のうえで給与の10%を自ら株式の追加購入に回した。

「船乗りは普通、自社株を持たないし、福利厚生も十分でないことが多い」と同紙に語るマッセルマン氏。スペースXでは、多くの企業ならば手厚い恩恵を用意しない現場の働き手までを対象に、株式報酬制度を広げている。

同氏は保有株の評価額こそ明かしていないが、バージニア州チェサピークで自らの修理事業を起こすことを目指している。