スペースX株を食事券と交換した人々の後悔
大化けするかもしれない株式を持ち続けるか、早々に見切りを付けて手放すか。スペースXの従業員にとって、それが最も重い判断だった。
同社の社内では、ある伝説がまことしやかに語り継がれている。草創期の一部の従業員たちが、レストランチェーン「チリーズ」のギフトカードと引き換えに自社株を手放した、というものだ。
マスク氏はかねて上場企業を嫌い、定期的な情報開示義務への不満を公言してはばからなかった。その言葉を額面通りに受け取り、「どうせ上場しない」と信じて株を売った従業員は少なくなかったと、ニューヨーク・タイムズは伝える。複数の現役社員の証言によれば、彼らはいま、深い後悔に苛まれているという。
リスクを承知で株を握り続けた者は、報われた。ギャビン・プティ氏(42)は2012年、エンジニアとしてスペースXに入社した。年俸8万ドル(約1000万円)に加え、1株13.80ドル(約2210円)で数千株を付与された。ロケットの打ち上げが次々と失敗に終わり、ニュースを通じて物笑いの種になっていた時代だ。それでもプティ氏は、ボーナスを現金ではなく、追加分の株式の形で受け取り続けた。
「労働者へのリスク転嫁」という声も
権利確定に必要な5年以上の在籍期間を全うしたプティ氏は、半年ごとの「流動性イベント」、つまり非上場株を外部の買い手に売却できる機会を利用して一部を売り、デンバーの自宅ローンを完済した。それでも大半はあえて手元に残し、いまでは5万株以上を保有している。
2023年に宇宙関連企業カタリスト・スペース・テクノロジーズへ転職したプティ氏は、今回の上場を、「現代のコカ・コーラか、グーグルのIPOのようなもの」と表現し、「宝くじに当たったようなもの。本当に運が良かった」と語った。もっとも、プティ氏がその幸運を掴めたのは、先の見えない時代に株を握り続けた覚悟があってこそだ。
一方で、専門家からは慎重な意見も聞かれる。
ジョージタウン大学マクドノー経営大学院のジェイソン・シュレッツァー准教授は、フォーチュンの取材に対し、「紙の上で数百万ドルの価値があるエクイティ(株式持分)は、銀行口座の数百万ドルとは性質が異なる」と警告する。
シュレッツァー氏は、多くの従業員は株式を無償で受け取ったわけではないと指摘。給与天引きで自社株を購入する仕組みを通じ、自らコツコツと持ち株を買い増してきたわけだ。
つまり、確実にもらえるはずだった給与の一部を差し出し、その分だけ株価変動のリスクを従業員が引き受ける構図だ。同氏はスペースXの事例を挙げ、「労働者へのリスクの転嫁」にほかならないと語る。

