「四半期利益にフォーカスしたくない」
巨額の資金を引き寄せたスペースXは今後、短期の業績にとらわれることなく、長期的なビジョンを優先する構えだ。
同社のグウィン・ショットウェル最高執行責任者(COO)は上場初日の朝、CNBCのインタビューで懐疑派に対し、「私たちの実績と歴史を見てください。本当に難しいことをやっているんです」と一蹴した。
「四半期利益にフォーカスしたくない。投資家を軽視するつもりはないが、スペースXに投資する人たちに理解してほしいのは、私たちがやっていることは非常に未来志向だということ」と続けた。
同社の勢いを信じる個人投資家たちには、すでに門戸が開かれている。同社はIPOの申請書類で公開株の30%を個人投資家向けに割り当てると表明し、フィデリティやEトレードなど個人向け証券会社を通じて販売する方針だ。宇宙産業への投資機会を、幅広い層に提供するねらいがある。
宇宙産業の関係者は、今回の上場により、宇宙産業全体への投資ブームが到来する可能性もあるとみる。ヴォイジャー・テクノロジーズのジェフリー・マンバー会長兼CEO特別代表はスペース・ドットコムの取材に応じ、「IPOの予期せぬ影響の一つは、文字通り何十人もの新たな商業宇宙起業家が自己資金で会社を立ち上げることだ」と語った。4400人の従業員が上場で富を手にしたことで、宇宙産業は「商業宇宙サービスの真の爆発的拡大」を迎えるのではないか、とマンバー氏はみる。
事実、スペースXは調達額で歴史的な水準に達している。コロラド大学ボルダー校のシェーン・デイヴィス准教授(金融学)は、同社がたった1社で調達した約750億ドル(約12兆円)という額は、ドットコムバブル(1990年代前期〜2000年代初期)の最盛期に全米のIPOが集めた総額を上回ると指摘する。
会社を信じ続けた従業員が報われた
巨額の資産を手にした今も、溶接工のエルナンデス氏は変わらず現場に立ち続けている。
アメリカへの移民として「懸命に働くこと」を叩き込まれて育った彼は、富を得ても仕事を辞めるつもりはないと米CBSニュースに語った。自ら学んだ教訓を、3人の子どもたちにも伝えていくつもりだという。
勤労の精神と共に、彼が重視している教訓の柱が、投資だ。スペースX株を通じて身をもって学んだ投資の感覚を、子どもたちにも教えている。16歳の娘はすでに、メタ(旧フェイスブック)をはじめ複数企業の株を所有。「あの子自身、ちょっとした起業家ですよ」とエルナンデス氏は誇らしげに語る。
かつて「会社が何をしているかも知らなかった」ほどの溶接工の男は、子どもたちに未来への賭け方を教える父親になった。
マスク氏については、どう思っているのか。エルナンデス氏はこう語る。「彼は、料理人や電気技師といった僕たちのような人間にも可能性を開いてくれた。多くの人の人生をより豊かで意味のあるものにし、その家族にとっても同じことをしてくれている」
従業員へのリスクの押し付けとも指摘される、株式による報酬制度。批判の一方で、幸せを掴んだ4400人の従業員たちは、行方の知れなかった宇宙企業を信じた見返りを受け取っている。
先行きの読めない会社を信じ、批判に晒された時代も勤労を忘れなかった従業員たちへの、何よりの報いとなった。
※本稿は特定の株式への投資を推奨するものではありません。


