「うさぎより亀が勝つ」との出会い

読めば読むほど、もっと知りたいことが出てきます。どうにかしてこの人から直接教えを請いたい。その思いが高まり、1978年、私は正式にペガサスクラブに加盟したのでした。

毎月東京で先生のセミナーを受け、札幌に戻ると社員にも先生の本を読ませて、私が講師となって勉強会を開きました。終了後には居酒屋に移動して、社員と一緒にこれからのニトリについて議論を重ねたりもしました。とにかく全力で勉強しましたし、充実していました。

しかし、理論と現実はなかなか合致しません。

渥美先生のチェーンストア理論は、きっちりした作業計画に従ってローコストで店舗を運営していく方法。一方で、当時のニトリは長時間労働を良しとする「がんばれ主義」で、行き当たりばったりの人海戦術。先生が説く理論とは真逆の経営でした。

理論を知っているのにうまく実行できない。そんなもどかしさを抱えながらも、私は諦めませんでした。「人よりのろまで頭が悪い」と言われて育った私は、渥美先生の言葉に救われていたからです。

「うさぎより亀が勝つ」

「賢いやつは慢心するし、できると怠けたりする。遅くてもいいから、素直に柔軟にこつこつとやるのが大事だ。鈍重たれ」

その言葉は励みとなり、勇気をくれていました。のろまなのも、頭が悪いのも、私にとっては努力を続ける理由となったのです。

レポートの作成
写真=iStock.com/Pressmaster
※写真はイメージです

ロマンの実現に必要なビジョンという地図

もっとも、そんな励ましの言葉があっても、渥美先生の厳しさは本物でした。たとえ北海道からの参加であろうと遅刻したら教室には入れず、話に聞き入って手を止めていると「聞くだけだと忘れるだろう! メモを取れ!」と叱られます。

必死にペンを走らせるわけですが、忘れっぽいのが私です。聞いても覚えられないし、書いても読み直さないので頭に入りません。セミナーの最後に受ける確認テストの成績はいつも悪く、学生時代と変わらぬ劣等生でした。

それでもなんとか先生の理論をモノにしたい。そこで私が編み出した工夫が、「同じセミナーに何度も参加する」こと。一度で覚えられないなら、二度三度と繰り返せば、さすがに記憶に残ります。

その上で、学んだ内容や取り組まなければいけない課題について、意識して人に話すようにしていました。言えば実行せざるを得なくなるからです。繰り返しとアウトプットの工夫は、のろまで頭が悪い私にとって必要な学びの工夫でした。

渥美先生から学んだ多くの言葉は今も私の心に深く刻まれています。先生によれば「人のため、世のために行動するという志を持った人」がロマンチスト。会社にはロマンが必要であり、社長以下、社員はロマンチストでなければならない。

そして、ロマンと並んで大事なのがビジョン。「ビジョンとは20年以上先に達成すべき、長期の目標」「ビジョンには目標とする数字と、それを達成するまでの期限を入れた具体的な数値目標がなければならない」

私は、この「ロマンとビジョン」をセットにした考え方をずっと大事にしています。私なりに解釈すれば、ロマンとは、自分の人生と事業を通じて実現したい夢。ビジョンとは、具体的な数字を盛り込んだ長期目標、夢に向かう取り組みを明確に記した地図のようなもの。

理論を知るだけでなく、自分の中で解釈し、使える形にすることで、ニトリの中に渥美理論が根を下ろしていきました。