日本で無視される「反国家分裂法7条」

一例を挙げよう。台湾海峡危機の根源は、中国国民党(台湾)と中国共産党(大陸)との戦争(=国共内戦)だ。しかし現状、海峡を砲弾が飛び交っていないのは、大陸側が実質的な平和統一宣言である「台湾同胞に告げる書」を発出したことが大きい。

「台湾同胞に告げる書」とは、1979年1月1日に当時最高実力者だった鄧小平氏が発した対台湾政策の方針で、それまでの武力解放から平和統一への転換を示す決断だった。もともと「台湾同胞に告げる書」は、1950年と1958年にもそれぞれ発表されており、2度目の文書では「平和解決」にも言及された。「平和統一」の文言は1979年版からだ。

1979年1月29日、中国共産党副主席兼中国副総理の着任式での鄧小平氏
1979年1月29日、中国共産党副主席兼中国副総理の着任式での鄧小平氏(写真=米国立公文書館/Yeenosaurus/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

中国が、この「平和統一宣言」ともいうべき鄧小平版「台湾同胞に告げる書」を国内法に昇華させたのが、現在の「反国家分裂法」であり、その第7条には、「国は台湾海峡両岸の平等な話し合いと交渉によって、平和統一を実現することを主張する」と明記された。

その上で、続く第8条で「『台独』分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる」と警告している。

これを簡潔にまとめれば「まず平和統一を目指す。だが、台湾が分離・独立を強行するなら、武力行使も放棄しない」となるのだが、日本ではなぜか前半の記述は無視され「武力行使は放棄しない」ということだけが強調されてきたのだ。実に不思議な話だ。

台湾・民進党の「中国離れ」の影響

もちろん、台湾海峡の安定には、米軍が果たしてきた役割も無視できない。だが、もし中国が本気で台湾を統一しようとすれば、米軍という“重し”だけで、それを阻止できたかといえば、決してそうではない。

実際に中国は、朝鮮半島で米軍と戦い、ベトナム戦争でも北ベトナムを支援する形でアメリカと戦った“実績”がある。民族の悲願である台湾統一を、米軍との衝突回避という理由だけで諦めるとは考えにくい。

やはり「平和統一宣言」には中国自身の選択が強く反映されたとみるべきだが、その動機が何かといえば、経済発展の優先だった。戦争より発展が急務だったのである。

さらに統一後をにらんだ判断もあったはずだ。強硬な手段で台湾を統一しても、反発する2300万人の島を経営することは難事業でしかない。それならば時間をかけて統一へと向かう方が得策であり、その間に大陸の人々に経済発展をもたらそうということだ。

これこそ、大陸側が実質的な現状維持を容認し続けた理由なのだ。

ところが、ここ数年、中国がのんびり構えていられない状況が台湾内部で顕在化する。国民党に代わって政権党となった民主進歩党(民進党)の下で、台湾の「中国離れ」とも言うべき現象が加速したからだ。ここで民進党がもし台湾独立に向けて性急な動きを見せ、万が一、既成事実としての「独立」に踏み込むようなことになれば、中国の指導者はそれこそ鼎の軽重を問われ、「非平和的方式その他必要な措置」で、これを抑え込む必要に迫られる。