地上戦の覚悟はなかった

私が専門にしている歴史研究から、朝鮮戦争の事例を挙げると、国連軍の司令官だったマッカーサーはある時期までは北朝鮮を打倒する、無条件降伏を突き付けると言って北緯38度線を超えて進撃しましたが、中国軍の参戦という予期せぬ事態を招きました。

そこでマッカーサーは中国に対する核兵器の使用にまで言及し、事態をエスカレートさせるぞと匂わせて優勢を維持しようとしたのです。しかしさすがに核使用をほのめかすマッカーサーを許容できないと、トルーマン大統領は1951年4月にマッカーサーを解任。朝鮮戦争は休戦会談へと進んでいくことになりました。

1950年9月15日、米海軍艦「マウントマッキンリー」から仁川砲撃を見るコートニー・ホイットニー准将、ダグラス・マッカーサー大将、エドワード・アーモンド少将(右)
1950年9月15日、米海軍艦「マウントマッキンリー」から仁川砲撃を見るコートニー・ホイットニー准将、ダグラス・マッカーサー大将、エドワード・アーモンド少将(右)[写真=Nutter (Army)/PD US Army/Wikimedia Commons

事態をエスカレートさせる場合には、アメリカもそれに伴う犠牲やコストを払わなければなりません。しかしトランプ大統領にその覚悟があるかと言えば、疑わざるを得ないのが現状です。

実際に、ある時期までは「イランに地上軍を派遣する可能性」に触れていましたが、今では口にしなくなりました。今や何らかの妥協をせざるを得なくなっていますが、その妥協をどう見出だすかに苦心している状況です。

トランプがくらった“自業自得”

――アメリカとイランの間でイランとの和平交渉も行われていますが、イスラエルが反対しているという実態もあります。

【千々和】イスラエルは過剰なまでの脅威感を持っています。それはホロコーストの歴史や中東戦争という歴史上の経験から来る過大な警戒心によるものですが、ガザに対するとても弁護できないような虐殺行為を行い、国際法違反の疑いが濃厚であるイラン攻撃を実施しています。

2025年6月にもイスラエルとイランは12日間戦争を戦っていますし、レバノンのヒズボラにも攻撃を加えています。次はイランを徹底的に叩くということで、できる限りアメリカを巻き込んでおきたい。休戦には反対するでしょう。

一方でアメリカではMAGA派と呼ばれるトランプ支持者たちが、対イラン戦争の長期化傾向に疑問を呈し始めています。そもそもMAGA派の人たちはアメリカが過剰に対外政策に関与することに否定的です。

7月4日のパレードでのドナルド・トランプのプロパガンダ
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「アメリカ・ファースト」だからこそトランプ大統領を支持したのであり、イスラエルのためにアメリカのリソースを割いてほしくはない。しかもホルムズ海峡の封鎖で世界的な原油高となり、アメリカ国内の物価も上がっているとなれば、トランプ政権に対する非難の声も強まります。

11月に中間選挙を控えるトランプ大統領は、だからこそ早く事態を収拾したいのでしょうが、イランも一筋縄ではいきませんし、イスラエルは休戦を認めない。そうして休戦が長引く間に、国内の支持も失っていく。トランプ大統領は厳しい局面に立たされています。