父親がやるべき“うまい声かけ”
大人だって自分が愛着を持つ物を貸すのは気が進まない。楽しんでいる時間を誰かに邪魔されたくもない。そう考えると、子どもだけが我慢を強いられてきたのかもしれない。秋田先生は言う。
「人生は『イエス』や『はい、喜んで』だけではないですからね。もちろん『ノー』にも直面します。突然、『ノー』を突きつけられて心が折れると困るから、小さな挫折を積み重ねて、自分の感情をコントロールできるように育つことが大切なんです。親御さんはそのプロセスだと受け止めればいいと思います」
では、強い関係で結ばれた2者の間に入れずに落ち込む子どもに、父親としてどんな声をかければいいのだろうか。
「入りたかったよね。せっかく『一緒に遊ぼう』って言ったのにね。でも、お兄ちゃんとお姉ちゃんたちは2人で面白いことを続けたかったんだね。Kくんだってそういうときあるでしょう」
秋田先生はそんな声かけの実例を挙げてくれた。
「ポイントはその子が悪くないことを伝えることと、仲間に入れてもらえなかった子に寄り添うこと。たとえば『泣いたけど、よく我慢できたね』『今度、お砂場で一緒に遊べるようにおもちゃを持っていこう』と声をかけるのがいいかもしれません」
ケンカやトラブルがないのは良いことか…
秋田先生の話を聞きながら、この一件は親としてさほど気にする必要はなかったのかと思いはじめていた。次の言葉を聞くまでは……。
「ただ、なかにはカッとなって相手の子どもに憤りを覚える親御さんもいます。子どもの感情に同化しすぎてしまい、相手の子どもが悪意を持って仲間はずれにしているのではないか、と勘違いして園でトラブルになるケースもあるんです」
ゾッとした。仲間に入れてもらえずに泣く息子を前にした瞬間、私もKの感情に引きずられた覚えがあったからだ。
誰にとっても我が子は特別だ。子どもは残酷だなとドライに受け止める一方で、相手の子どもに敵意を持つ親の気持ちが想像できる自分がいたのだ。自分とは違う地平にいたはずの、感情を暴走させて園や学校に怒鳴り込む親の気持ちに触れた気がした。秋田先生は続ける。
「子どもたちは同年代の友だちとケンカやトラブルを経験しながら無意識に人間関係を築いていきます。一見するとケンカやトラブルがないのはいいことのように感じるかもしれませんが、裏を返せば、経験する機会が失われているということ。
いまは子どもが少なくなり、大人の目が届きすぎて、子どもだけで経験を積みにくい環境になっています。本来、子ども同士のトラブルは子ども同士で解決したり、子ども自身が自分の感情に向き合ったりするのが、理想なのですが……」

