新世界と受験産業の相性
バーナードとレーニナの二人は、新世界から隔離されている「野人保護区」に向かいました。そこには旧世界の暮らしを続けている「野人」が住んでおり、昔ながらの恋愛結婚、出産、そして文学が生き残っています。
そこでバーナードたちは、隙あらばシェイクスピアを引用する文学青年ジョンに出会います。この「人間的な」世界がいい感じに描かれているかというと、そうでもないのが本作の面白いところです。
ジョンの目には、新世界の労働者が本当に幸せであるようには見えません。ジョンの疑問に、新世界を統治する世界統制官はこう答えます。
「疲れない程度の軽い労働を7時間半やれば、あとは配給分のソーマとゲームとフリー・セックスと感覚映画が楽しめる。それ以上、なにを求める?」
現代でも、リベラルや人文系が排除され、金稼ぎとフリーセックスと娯楽だけで回る新世界を好もしく思う人は多いのではないでしょうか。そしてそう思える人は、受験産業のシステムと相性がいいはずです。
自分の価値観は新世界寄りなのか、それともジョンの言い分のほうが理解できるのか。この小説は、格差社会を生きる自分が何を重んじているかを考えるきっかけになるでしょう。
私たちは序列意識とまったく無縁ではいられません。結局のところ子育ては、どこかで親の価値観の押し付けにならざるをえないものです。だからこそ「子どもが選んだから」などと子どもの責任にせず、親の責任において決めるしかないのでしょう。
「おまえのためを思って」式の言葉でごまかしたりせず、はっきり自分の価値観を示せば、反発するにせよ同意するにせよ、子どもも子どもなりの価値観で向かってきてくれるのではないでしょうか。
『すばらしい新世界〔新訳版〕』
オルダス・ハクスリー、大森望訳、ハヤカワepi文庫、2017年
オルダス・ハクスリー(1894―1963)は英国の小説家、評論家。生物学者のトマス・ハクスリーを祖父に、同じく生物学者のジュリアン・ハクスリーを兄に、文芸誌の編集長を務めたレナード・ハクスリーを父に持つ。1908年、医者を志してイートン校に入学するも角膜炎を患い退学。2年後、視力がある程度戻り、オックスフォード大学のベイリアル・カレッジに入学、文学と言語学を学ぶ。1916年には第一詩集『燃える車輪』を、21年には初の長編『クローム・イエロー』を刊行。以後、小説や評論、旅行記といった幅広い分野で活躍し、32年に『すばらしい新世界』を刊行。同作はオーウェルの『一九八四年』と並び、ディストピア小説の傑作として広く知られる。63年、舌癌のため死去。享年69。(編集部)


