下を見下し、上を哀れみ、みな満足に暮らす

たとえばベータの女性は、上の階級に嫉妬しないよう、睡眠学習でアルファの苦労を聞かされながら育ちます。

「わたしはベータでほんとによかった。あんなにたくさん勉強しなくて済むから」

同時に、下を見て安心する刷り込みも行われます。

「ガンマは莫迦。みんな緑色の服を着ている。デルタの子はみんなカーキ色の服を着ている。いやだ、デルタの子とは遊びたくない。イプシロンなんてもっとひどい。頭が悪すぎて読み書きもできない……」

熱帯で働く労働者階級は、胎児の段階で条件付け学習によって寒さを嫌い、暑さを好むように仕込まれます。

こうして人びとは下を見下し、上を哀れみながら、誰もが自分の境遇に満足して過ごしています。

授業のために学校の建物に急いで走っている生徒
写真=iStock.com/Inside Creative House
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タワマン文学のような新世界

アルファやベータの人間関係には、タワーマンションを舞台に高学歴男女の格差や嫉妬を描く「タワマン文学」的な面白さがあります。

主人公は、アルファとして生まれるも、培養時のミスで労働者階級並みに貧弱な身体をもって生まれ、コンプレックスを抱えているバーナードです。

彼はグラマラスなベータ女性レーニナに恋していますが、彼女はアルファ男性ヘンリーに40階建てのタワマンに連れ込まれてしまいます。

バーナードは、レーニナをエロい肉扱いしてもてあそぼうとするアルファ男性たちに腹を立てています。彼にとってさらに最悪なのは、レーニナ自身が自分の身体を「肉みたいに思ってること」でした。

妊娠や性病の心配のない新世界では、女の子は誰とでも気軽にセックスするのです。

バーナードは思い切ってレーニナをデートに誘います。すぐにベッドをともにすることができましたが、虚しさしか残りません。

さみしさのあまり、「連帯のおつとめ」なる乱交パーティに参加しても、他のメンバーのようには盛り上がれない自分に気づきます。印象に残ったのは、女の子のつながった眉毛のことだけでした。

アルファの中で孤立しているバーナードの唯一の友人は、顔面とコミュ力が最強で、何百人もの女の子と寝ているとうわさされるアルファ男性ヘルムホルツです。

現状肯定の感情をかきたてるコピーライティングの才に恵まれた彼も、優秀すぎてやはり孤立していたのです。