「古畑」の大きな特徴
『古畑任三郎』には、倒叙ミステリー以外の特徴もある。刑事ドラマなのに会話劇という点だ。このあたりは、シチュエーションコメディ『やっぱり猫が好き』(フジテレビ系、1988年放送開始)で頭角を現わした三谷幸喜の本領である。
推理力に秀でた古畑は、早々に怪しいと目星をつけた犯人を言葉だけでじわじわ追い込んでいく。普通の刑事ドラマのような取調室の場面やアクションシーンはない。刑事ドラマとしては異色だ。
捜査とは一見関係なさそうな何気ない会話をにこやかに交わしながら、ちょっとした言葉の矛盾などを突いて犯人をじりじり追い詰め、最後は観念させる。むろん犯人の側も、そうはさせまいと口八丁手八丁で古畑に対抗する。そんな犯人との虚々実々の駆け引き、心理戦が『古畑任三郎』の面白さのエッセンスだった。
そして、ひとしきり話が進んだところで、古畑がひとり暗闇にピンスポットで登場し、「私がいつわかったか、皆さんも考えてみてください」などとカメラ目線で語りかける。そしてニヤリと笑みを浮かべながら、「古畑任三郎でした」と締めて暗転。解決篇に入る。
刑事役を演じたことがなかった田村正和
ほかにも毎回冒頭に古畑がその回の内容と関係した例え話などをする一人語りの場面もあり、『古畑任三郎』は田村正和のワンマンショーの趣があった。
1943年生まれの田村は、『古畑任三郎』が放送開始した年にちょうど50歳になった。1970年代、時代劇『眠狂四郎』(フジテレビ系)で演じたニヒルでミステリアスな剣豪役で女性から熱い支持を受ける。恋愛ドラマなどにも度々出演し、二枚目俳優の代表として名を馳せた。
役柄に劇的な変化が起こったのが1980年代である。
『うちの子にかぎって…』(TBSテレビ系、1984年放送開始)ではませた子どもたちに振り回される優しい小学校の先生、『パパはニュースキャスター』(TBSテレビ系、1987年放送)では突然現れた3人の隠し子に翻弄されるニュースキャスターと、これまでとは百八十度違うコミカルな役を演じ、世間を驚かせた。ドラマはいずれも大ヒット。演じる役の幅もぐんと広がった。
そんな長いキャリアのなかで、田村正和が演じたことがなかったのが刑事役だった。

