なぜ閣僚級を派遣しなかったのか
なぜ中国は、閣僚級人物らを会合に送り込まなかったのか。最大の理由として考えられるのが、習近平氏が進める粛清の余波だ。
董軍氏の前任の国防相2人、魏鳳和氏と李尚福氏は汚職撲滅キャンペーンで相次いで失脚し、今年5月には両名揃って執行猶予2年付きの死刑判決を受けていた。粛清の対象は、習近平国家主席が自ら抜擢あるいは昇進させた将官や、長年尽くした側近にまで及んでいる。
米NBCニュースは、戦略国際問題研究所がまとめた年次報告書『The Military Balance 2026』を引き、2022年以降、大将・中将クラスの将官101人が失脚した、あるいはその可能性があると報道。人民解放軍(PLA)の最高指導部ポストの、実に52%に相当する規模である。
報告書は、一連の粛清の結果、中国軍はいまや「指揮系統に深刻な欠陥を抱えたまま運用されている」状態に陥ったと独自に分析している。
ロイターは、複数の外国の駐在武官の話として、「今年の中国代表団は、軍幹部の汚職の追及が軍の戦闘準備態勢に与えている影響について、フォーラムで厳しい質問にさらされる可能性が高い」と伝えている。
孟氏らだけを派遣し、日本の防衛費増額や武器輸出拡大を批判することで攻撃的なメッセージを打ち出した中国の手法。閣僚をリスクにさらすことなく、非公式格の代表に攻撃役を担わせる形を選んだ、と読み解くことができる。
護衛艦供与で深まる日本とフィリピンの絆
シャングリラ会合では、日本に明確に寄り添う姿勢を見せた国がもう一つある。フィリピンだ。
日本とフィリピンは、地域の安全保障を念頭に、包括的戦略的パートナーシップを結んでいる。中国はこれを「平和への脅威」に当たると批判した。
ところが、同じフィリピンの近海でその言葉にまさに当てはまるような軍事演習を重ねているのは、ほかならぬ中国の側である。ここでも因果関係の無視が見られる。
首都マニラのデ・ラ・サール大学国際関係学部教授で、比米関係を専門とするレナト・クルス・デ・カストロ氏は、シャングリラ会合の質疑応答セッションで、「主権を持つ2つの独立国が、地域の安全保障のために結んだ合意である」と言及。
日比間の合意に関し、第三国がただちに「無効」を突きつけてきたと強い不満を表明した。デ・カストロ氏は「もちろん、私が言っているのは中国のことだ」と名指ししている。
主権国家どうしの安全保障協力を、否定的なレッテルで塗り込めようとする中国に、マニラと東京はどう向き合うべきか。デ・カストロ氏は、そう問いを投げかけた。
応じたのは、日本の小泉氏だった。小泉氏は、フィリピンのテオドロ国防相と緊密に協力できることに謝意を示し、つい2週間前にもフィリピンへ飛んで中古フリゲートの供与を話し合ったと明かした。登壇の直前にも両氏は顔を合わせ、あぶくま型護衛艦を正式に供与することで大筋の合意に達したという。
しかも小泉氏は、こうした協力をあくまで透明性をもって進めると強調している。

