能力はあるが器が小さいリーダーが起こす弊害
ここまでを踏まえて、「能力はあるが器が小さい人」と「能力はないが器が大きい人」――どちらが会社を伸ばすのか、という問いを考えてみましょう。リーダーを「能力・実力」と「器の大きさ」の2軸で分類すると、4つのタイプが見えてきます(図表3)。
理想は能力も器も両方を備えたリーダー(Aタイプ)で、先述したとおり、器という土台があってこそ、能力が活きてきます。しかし現実には、そのバランスが崩れたリーダーが、組織に深刻な影響を与えるケースが少なくありません。
特に注意したいのが、Cタイプの「能力・実力があり、器が小さい」リーダーです。このタイプは、能力主義の社会ではしばしば称賛されます。数字を出す、案件をまとめる、難局を切り抜けるなど、そうした実力は現行の評価制度の中で可視化されやすく、短期的な成果を生む戦力として重宝されます。
しかし問題は、器の小ささゆえに、自分と異なる価値観の他者を十分に思いやれないことです。それにより、メンバーは萎縮し、組織全体のモチベーションやモラルが低下していきがちです。すると自律的な部下から順に去り、残ったメンバーは指示待ちになり、表面的な成果創出の裏で、組織は少しずつ弱体化していってしまいます。
加えて、結果を出している実力者に対しては、周囲が反論しにくいという構造的な問題があります。「やり方は厳しいが、結果を出しているから」と黙認され、問題が表面化するまで改善の指摘がなされないまま放置されることが、よくあります。
その間に組織内部の状況が着実に悪化していくものの、気づいた頃にはすでに手遅れになっている、というのが多くの組織で繰り返されている事態ではないでしょうか。
能力を活かすにはそれを支える器が必要
この問題の根本には、能力主義そのものへの過信があります。政治哲学者のマイケル・サンデル氏は『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)の中で、「運命の偶然性を実感することは、一定の謙虚さをもたらす」と述べています。
自分がいまの地位にあるのは自身の努力と能力の結果だと信じきっている人は、他者への共感を失いやすく、異なる立場の人を理解する想像力が働きにくくなりがちです。能力だけを拠り所にするリーダーは、謙虚さを失い、組織に分断をもたらします。そしてそれは、長期的に見れば組織の衰退へとつながっていきます。
だからこそ、能力だけでなく、器を育てることにも目を向ける必要があります。ただし、器をベースにしたアプローチでは、成果が見えにくい期間が長く続くかもしれません。それでも辛抱強く器づくりを続けていると、ある時点でチームの空気や関係性が飛躍的に変わる瞬間が訪れます。
リーダーの器が広がることでチーム全体が活性化し、それが環境変化への適応や、持続的なイノベーションを生み出す土壌へとつながっていくのです。
まとめると、能力と器は二者択一ではなく、両方を兼ね備えていることが理想の姿です。しかし、そこには順番があり、能力(中身)を活かすには、それを支える器(土台)を整えることが先に必要です。
1on1の「やり方」を学んでも、部下を尊重する「あり方」がなければ意味ある対話にはなりにくいように、器というあり方に目を向けないまま、スキルや方法だけを学んでも、形だけの模倣にとどまってしまいます。


