「営業として、何となく余裕がないような印象も与えてしまいかねないんですよ」と吉田さんは語る。
相手に合わせるためには、じっくり話を聞く力が欠かせないが、同時に自分の話を相手がどう聞いているかということにも、しっかりアンテナを立てておかなくてはならない。
「たとえば誘致するエリアが六本木で、その話を振ってみたとします。しかし、過去に住んでいたことがある人だったとしたらウンザリしながら聞いているかもしれません。相手の様子を見て、この人は今どう思っているのか、素早く察知する。それには気配りだけでない『目配り』が重要です」
表情や仕草を注意深く見て、たとえば身を乗り出していれば話に乗っているなとか、目線が泳いでいれば退屈しているなとか、さっと読み取るのだ。こんなふうに臨機応変に相手に対応していくには現場で場数を踏むことも大切だが、吉田さんは事前の情報収集も徹底的に行うようにしている。
「最初の顔合わせの前には必ずお客として店に行き、メニュー構成やスタッフの接遇などを見ます。そうすることでオーナーの考え方もわかってくる」
そうすれば会ったときに「女性スタッフが多いのはどうしてですか」などと具体的な話題を投げかけることができる。これで距離もぐっと縮まり、交渉がスムーズに流れていくという。
「あらゆるところから情報を取り、それを丸で囲んで宙に浮かべている感じ。それを話の流れに応じて、ひょいひょいとつかんで小出しにする感覚かな」
新店舗について「こういう店にしたらどうでしょう」と価格を入れたメニュー提案までしたことがあったという吉田さん。大切なのは相手に興味を持って覚えてもらうことだと語る。相手が自分のペースに合わせてくれると思っているうち、いつしか吉田さんのペースに巻き込まれ、気がつけばクロージングへと向かっているのだろう。
相手の話の流れに乗り、一緒に盛り上がれ