「逃げ場のない」研修施設とそのプログラム
一方、技術力や生産力ではすでに世界トップクラスにあるものの、欧米企業と英語で議論し、交渉し、意思決定を主導できる人材が十分とはいえない。そんな強い危機感を抱いていた時代だったようです。
案内してくれた人事担当のキムさん(仮名)が、まず見せてくれたのが語学研修棟でした。
「ここでは、海外赴任予定者などが数週間、原則として英語だけで生活します。英語に『慣れる』どころか、『逃げ場のない環境に置く』ことが重要だと考えていました」
冗談かと思いましたが、彼の表情は真剣でした。
「研修期間中は、いわゆるEnglish Onlyのルールです。講義やディスカッションだけでなく、食堂や廊下でも英語。早朝から夜遅くまで、ほぼ1日中、英語環境に身を置く高密度なプログラムです」
評価についても、当時ならではの厳しさがありました。
語学力が「キャリアの分岐点」になる
「研修の最後には、TOEICやOPIcといった指標で到達度を確認します(※2)。目標に達しない場合、すぐに海外赴任というわけにはいきません。語学力がそのままキャリアの分岐点になるという認識が、社内でかなり強いのです。厳しいですが、それくらいやらないと欧米の市場では戦えません。スコアそのものより、会議や交渉の場で『使えるかどうか』がすべてですから」
※2:新入社員のTOEIC平均点は900点以上(最低ライン:事務系700点、技術系620点)
後日、実際にサムスンで海外営業を担当している方と話す機会がありました。その方は、この合宿型の語学研修を経験していました。
「正直、地獄でしたよ。でも、あの数週間で、英語に対する恐怖心がなくなりました。完璧じゃなくてもいい、とにかく伝えなければ仕事にならない、という感覚を体でたたき込まれたんです」
17年前という時代を考えれば、このやり方は合理的であり、何よりも危機感と切迫感に満ちたものでした。日本企業でも当時、語学力の重要性は認識されていましたが、仕事を止めてでも合宿させ、行動変容を狙うところまで踏み込んだ例を、筆者はあまり知りません。
