名誉は与えられるが、報酬は削られる
さらに重要なのが、この新住宅地区が平壌に建設されたということだ。北朝鮮では、首都・平壌の新しい住宅地区に入り、最高指導者親子が新居を訪ねること自体が、政治的にも生活上も特権的な処遇を意味する。住宅は、生活上の恩恵であると同時に、戦死を国家的名誉に変える舞台装置でもある。
ところがその裏で、兵士本人への金銭的報酬は冷たく削られている。
2025年3月27日に配信された東亜日報の記事によれば、ロシア派遣の北朝鮮兵は1人あたり月2000ドル程度を受け取るはずだが、本人に渡るのは400〜500ドル程度で、残りは北朝鮮当局に上納されているとの証言がある。別の証言では、報酬をまったく受け取っていない兵士も相当数いると伝えている。
兵士は報いる対象であると同時に、外貨を生む労働力であり、国内に忠誠を示す宣伝材料でもある。勲章、記念施設、住宅は、体制が戦場の死を政治資源に変える道具になっている。「命を差し出せば一族が名誉を得る」という物語が国民に向けて演出される一方で、肝心の本人の懐には半分以下しか入らない。この矛盾こそ、金正恩体制が戦争を利用する論理をよく示している。
北朝鮮軍にとって「72年ぶりの実戦」となった
だが「英雄扱いと給与搾取」という矛盾だけを見ていると、もう一つの、日本にとって遥かに重い意味を持つ事実を見落とす。
先述の通り、ウクライナ戦争で北朝鮮兵は6000人超が死亡したとみられている。この数字だけを見れば、「北朝鮮は大きな損失を出した」と考えたくなる。実際、その見方には一定の根拠がある。
だが、安全保障上の本質はそこでは終わらない。現代戦では、敗北や大損害もまた学習材料になる。どの部隊編成が壊滅しやすいのか。どの補給線が狙われるのか。ドローンに見つかる兵士の動きは何か。生き残った者は、その答えを体で覚えている。
北朝鮮は朝鮮戦争を経験した国家であり、特殊部隊や砲兵を重視する軍でもある。だが、朝鮮戦争以降、正規軍が大規模な現代戦を継続的に経験する機会は限られてきた。その休戦から72年経ち、ベトナム戦争や第4次中東戦争などへの派遣はあったが、戦闘機パイロットや訓練要員としての関与が中心で、自国の正規部隊が師団規模で現代戦を指揮した事例はない。

