【南】テーラワーダ仏教の人たちは「我々は仏教のプロだ」といいますね。彼らの教えでは、釈迦の教義や戒律、僧侶の訓練方法、すべてが確定している。そして、般若心経であろうと、彼らの決めた「原典」にないものは、すべて間違いだという。私には「絶対正しいことがある」という主張自体が、仏教の「諸行無常(しょぎょうむじょう)」(※注2)の否定だと思います。
【島田】キリスト教のやり方と同じです。
【南】そうです。私はよく講義の中で「世の中の思想には、仏教と仏教以外しかない」と挑発します。仏教以外のふつうの思想は「絶対に正しいものがある」という前提から出発します。一方、私が理解する仏教は「無条件に真理のようなものを提出することはできない」ということが根本にあります。だから「真理」とか「悟り」ということを無防備にいう人は信用できないんですよ。
【島田】そうした傾向は、日本の仏教の中にも浸透していますね。
(※注2:仏法の大綱である『三法印』の1つ。「諸行」とは、この世の一切の事物・現象のこと。「無常」とは、あらゆるものは常に移り変わるということ。)
青森県恐山菩提寺院代 南 直哉
1958年、長野県生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、西武百貨店で勤務。84年に曹洞宗・永平寺で出家得度。約20年の修行生活を経て、2005年より恐山へ。福井県霊泉寺住職も務める。著書に『恐山』『自分をみつめる禅問答』『なぜこんなに生きにくいのか』『「正法眼蔵」を読む』『老師と少年』『語る禅僧』、共著に『人は死ぬから生きられる』などがある。
宗教学者 島田裕巳
1953年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術センター特任研究員などを歴任。著書に『オウム真理教事件』『小説 日蓮』『神も仏も大好きな日本人』『戒名は、自分で決める』『葬式は、要らない』『日本の10大新宗教』『創価学会』『オウム なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』などがある。
1958年、長野県生まれ。早稲田大学文学部を卒業後、西武百貨店で勤務。84年に曹洞宗・永平寺で出家得度。約20年の修行生活を経て、2005年より恐山へ。福井県霊泉寺住職も務める。著書に『恐山』『自分をみつめる禅問答』『なぜこんなに生きにくいのか』『「正法眼蔵」を読む』『老師と少年』『語る禅僧』、共著に『人は死ぬから生きられる』などがある。
宗教学者 島田裕巳
1953年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術センター特任研究員などを歴任。著書に『オウム真理教事件』『小説 日蓮』『神も仏も大好きな日本人』『戒名は、自分で決める』『葬式は、要らない』『日本の10大新宗教』『創価学会』『オウム なぜ宗教はテロリズムを生んだのか』などがある。
(プレジデント編集部=構成 門間新弥=撮影)