バブル崩壊後95年に史上最高値の79円75銭

このように為替の世界では、「常識」と言われてきたことがあります。

たとえば、先ほど紹介した「円高が進行すると日本経済は停滞する」というのは、その1つですが、それでは「日本経済が良い時は円高になる」という「常識」はどうでしょう?

ここからは、この伝統的な「常識」が、本当にデータで裏付けられるものかどうかを、見ていきたいと思います。

たとえば、円が史上最高値を付けた1995年、日本経済はどういう状況だったでしょう?

バブル崩壊が顕著になった1991~93年に景気後退期の中で円高が進行し、95年に入っても円高が進み1月に「阪神・淡路大震災」が発生した後、4月に史上最高値(当時)の1ドル=79円75銭を付けました。

これをどのように解釈すれば良いでしょう?

最初に言いたいことは、為替の取引を行う人たちの動機はさまざまであり、日本経済の状況はその動機の1つに過ぎない、ということです。

日本の景気後退期とドル円レートの間に明確な相関は見られないということは、先ほど示した図表1の通りです。

「為替は相対的なもの」であり、ドル円レートで言えば米国と日本の各々の状況の影響を受けます。

したがって、ここでは日本経済のみを見るのではなく、米国経済の様子もチェックする必要があります。

日本経済悪化→円買い=円高になる理由

さらに、もう1つ認識しておくべきなのは、「経済が良くない故に円買いが生ずる」という事象が起こりうることです。

その一例としてよく引き合いに出されるのは、バブルが崩壊した1990年代の前半、バブル期に海外資産に投資した日本企業の経営が悪化して、海外資産を売却して円に戻す動きが増加した、という指摘です。

この動きは、一般的に「レパトリ(repatriation)」と言います。この「レパトリ」によって、「経済が良くない故に生ずる円買い」という円高要因が発生します。

では、1995年の円高に、バブル崩壊後の「レパトリ」が本当に寄与したのでしょうか?

ここでは、それを検証してみましょう。

図表2は、1991年から1997年までの「投資収支」とその内訳の推移を示したグラフです。

【図表2】1991~97年の日本の投資フロー

棒グラフのⒶの部分が日本から海外への投資(対外直接投資)の金額で、棒グラフのⒷの部分が海外から日本への投資(対内直接投資)の金額を示しています。いずれも投資の「実行」額から「回収」額を差し引いた「ネット」金額です。たとえば、対外直接投資では、「回収(=レパトリ)」が多くなると、このネット金額のプラスは減ることになります。

その「対外直接投資」の額と「対内直接投資」の額の差額(ネット額)が折れ線の「投資収支」で、これがゼロ横線よりも上であれば、日本から海外への「投資」がプラス(=日本から海外への「キャッシュ」の流出)ということになるので、円安要因になります。

1990年代前半から、投資収支の折れ線は緩やかに右肩下がりで、96年前半、ついにゼロ横線を割り込んでいます。