クマのフンで食べたものが分かる

クマのフンは森からの手紙だ。自然の息吹を伝えてくれる。

米田一彦『家に帰ったらクマがいた』(PHP新書)
米田一彦『家に帰ったらクマがいた』(PHP新書)

季節ごとの色と形を備え、明らかにクマのいまを語ってくれる。たとえば6月のササの芽なら缶詰のように綺麗なフンになり、夏に、べたっとなっていたなら甘くて水っぽいキイチゴを食っている。秋なら恐ろしいクロスズメバチの胴部が糞体から突き出るよう並んでいる。人間のフンのように均質だったらドングリ類を食べている。

11月なら、サルナシが均一にジャムのように不消化で出てくる。そんなフンは甘く良い香りがする。

私の世代のクマ研究者がクマを知る最初の取っ掛かりと言えばフンの分析だった。クマのフンを集めるには野外を歩かなくては叶わない。それで気象、季節とクマの生態の強い関わりを知ることができた。

鮮やかなグリーンのフンには注意

1996年6月のある日、若いメスグマが小さな尾を上げ、両後ろ足をぺたぺたと四股しこを踏むように腰を下げ、腹に力を入れると、写真では色がわかりにくいが、緑色フンがにゅるっと出た。

歩きながら脱糞した直後の緑色のフン
筆者提供
歩きながら脱糞した直後の緑色のフン

およそ動物生体から出た物質とは思えない鮮やかな緑色だ。クマはまだ目の前で草を食べていて、フンは見る見る黒くなった。

多肉多汁のオオウバユリ、キボウシなどの柔らかい草を食べ、脱糞した直後は油絵の具のように均質で鮮やかな深緑色をしている。もし、あなたが初夏の沢で緑色のフンを見かけたら、ちょっと前にクマがそこにいたことになるのだ。初夏を過ぎて人間が山菜と呼んでいる草を食べたフンは、繊維が絡んで黒くなる。

林間のエメラルドを今日も私は探し歩いている。あの初夏の日、心のキャンバスに新しい心象が描かれた。

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