O型は胃がんになりにくい
うまくできているものですが、残念ながら日本人の胃は、がんになりやすいのです。これまでの調査から十二指腸潰瘍の患者さんは胃がんが少ないことが知られていました。そのため、日本人の十二指腸潰瘍の患者さんと、そうでない日本人のDNAを比較したところ、十二指腸潰瘍のなりやすさと関連する2つの遺伝子が見つかりました(*3)。
このうち一方の遺伝子は、変異があると十二指腸潰瘍の発症率が上がると同時に、胃がんの発症率が半分近くまで下がります。そしてもう一つは、なんと血液型を決めるABO遺伝子でした。O型の人は、A型の人とくらべて十二指腸潰瘍に1.4倍なりやすかったのです。他の研究と合わせて考えると、O型の人は十二指腸潰瘍を起こしやすい代わりに、胃がんになりにくいようです。
血液型占いには科学的な根拠はないとされていますが、今回の研究は非常に厳密におこなわれたものです。血液型を決める遺伝子は血液の中の赤血球だけでなく、十二指腸を含むさまざまな組織で作用していることがわかっています。今後、研究が進むにつれて、血液型と病気のなりやすさについて、意外な事実が明らかになるかもしれません。これは将来のお楽しみとしましょう。
この論文の研究者らは、2つの遺伝子に変異が起きている人の割合を、日本人を含む11の人種で調べました。すると案の定、胃がんになりやすくなる組み合わせで遺伝子を持つ人が最も多いのが日本人でした。感染するピロリ菌の毒性が高いうえに、胃がんを発症しやすい遺伝的素因を持つ人が多いことが、日本で胃がんが多発する大きな原因と言えます。
発症率が高いのは男性、原因はタバコ
日本でピロリ菌に感染している人の割合は男性も女性も同じです。しかしながら、日本だけでなく世界のどこでも、胃がんの発症率は明らかに男性のほうが高いのです。なぜ、こんな「不公平」が起きるのだと思いますか?
その原因はすでに解明されています。一つがタバコです。日本で実施された多数の調査結果を総合的に分析した研究から、喫煙によって胃がんの発症率が高くなるのは確実という結論が得られています。タバコの煙には発がん性物質が70種類以上含まれていますから、当然と言えば当然でしょう。発がん性物質は細胞の中でDNAと結びつき、遺伝子変異を起こします。また、タバコが遺伝子のエピジェネティクス変化を促すという報告もあります。
喫煙による胃がんの発生は、ピロリ菌に感染しているかどうかとは無関係に起こり、日本人男性の胃がんは約6割がピロリ菌の感染、約3割が喫煙によるものと推定されています(*4)。そのためピロリ菌に感染している人がタバコを吸うと、感染しておらず、喫煙もしない人とくらべて恐ろしいことに胃がんの発症率が11倍以上高くなります。
日本は先進国のなかで男性の喫煙率が高い国でした。それがようやく2022年の統計で25.4%まで下がりました。この年の韓国とフランス人男性の喫煙率は30%台、米国は22.7%、英国は15.0%でしたから、なんとか欧米グループの仲間入りを果たしたと言えそうです。しかし、同じ調査で日本人女性の喫煙率は7.7%でした。これでは発症率に差があるのも納得です。

