欧米型より厄介な「東アジア型」
日本でおこなわれたコホート研究から、ピロリ菌に感染している人は、感染していない人とくらべて、胃がんの発症率が約5倍高いことが判明しています。その逆にピロリ菌をうまく除菌できれば、その後の胃がんの発症率は除菌する前の3分の1になります。
ピロリ菌が、胃がんに加えて鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹、糖尿病、さらにはアルツハイマー型認知症の発生を促す恐れがあることから、ピロリ菌に感染している人はすみやかに除菌治療を受けることが望まれます。
ただ、日本で胃がんが多いのは、ピロリ菌の感染率が高いからだけではないのです。じつは、ピロリ菌には大きく分けて東アジア型と欧米型があり、東アジア型のほうが胃がんを起こす力が強いことが明らかになっています。これに対して欧米型のピロリ菌は、胃の粘膜を傷つけることがあまりありません。毒性のもとになる蛋白質が少ないため、がんを起こす力が弱く、その代わりに十二指腸潰瘍を起こすと考えられています。図表2にイラストで示しました。
胃がんのうち、約10%はスキルス胃がんという特殊ながんです。スキルスとはギリシャ語で「硬い」という意味で、胃の壁が硬く、厚くなることがその名の由来です。進行が速いうえに早期発見が難しく、治りにくいがんです。本稿では、スキルス胃がんをのぞいた、通常の胃がんについて説明します。
日本人の胃は“植物向け”でがんになりやすい
そして、ピロリ菌のタイプだけでなく、日本人は胃が欧米人と異なります。まずは胃の形と機能です。図表3に日本人と欧米人に多い胃の形の模式図を載せました。日本人の胃は、たいてい鉤のような形をしています。
鉤とは物を吊り下げるためのフックのこと。縦に長くて先が曲がっているため逆流しにくく、出口が少し高い位置にあるので食物をしっかりためて消化できます。対照的に欧米人の胃は、牛のツノのようにすっきりした形で、胃の内容物がスムーズに腸に移動できるのが特徴です。そのため、それぞれ「鉤状胃」、「牛角胃」と呼ぶことがあります。
胃の形が異なる背景にあるのが伝統的に食べてきたものの違いです。日本人の食生活は木の実や穀物などの植物が中心でした。栄養素で言うと炭水化物です。食物繊維が多く含まれているために、胃のぜん動によってドロドロになるまで処理してから腸に送る必要があります。
これに対して欧米人は肉食が中心でした。蛋白質と脂質の消化は小腸が舞台なので、胃での処理を手早く終えて、食物を腸に送り出すほうがよいのです。そのため欧米人の胃は胃酸を大量に分泌し、壁が厚いので食物を力強く押し出すことができます。胃は形も機能も、食べてきたものに合わせて進化してきたということです。

