巨大事業に手を挙げたベトナム企業
ベトナムが自力で資金の大部分を調達し、中国には主に技術支援を求める。海外資本に渡す金利を最小限に抑えられる、ベトナムにとって好都合の戦略だ。だが、順調に進んでいるとは言い難い。
当初こそ、合理的な選択だとして意義を認める声もあった。東北大学のニコラス・チャップマン研究員は2025年1月、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策学院が運営するアジア太平洋政策分析プラットフォーム「イースト・アジア・フォーラム」への寄稿で、ベトナムの自力調達戦略は「独立と自助の精神(spirit of independence and self-reliance)」に立脚しており、戦略的に自律性を追求する姿勢だと評している。
中国の融資による影響力を可能な限り低減し、「債務の罠」のリスクから距離を置く狙いだったとの分析だ。
2025年5月になると、ベトナム最大の民間財閥ビングループ傘下のビンスピードが、南北高速鉄道への投資を提案。こうして資金源は確保されたかに見えた。
なお、香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストは、ビンスピードがこの時点で中国・ドイツ・日本・スペインの先進鉄道事業者と技術移転を協議していたとの情報を伝えている。
自国内でも待っていた「債務の罠」
しかし、同年12月になると、「債務の罠」を避ける計画には暗雲が立ち籠め始める。
ベトナム中央銀行と同国財務省がビングループに対し、高いレバレッジ、経験の不足、そして信用格付けの悪化リスクをはらむと相次いで警告したのだ。
警告後、ビングループは一転、南北高速鉄道計画からの撤退を表明する。他の大型プロジェクトに注力したいというのが、建前上の理由だった。国内最大の財閥でさえ670億ドルの事業を引き受けられないことが明確になり、「自力調達」の看板は事実上崩壊した。
サウスチャイナ・モーニングポストによれば、そもそもビンスピードは事業費の80%を政府からゼロ金利35年で借りる条件を想定。後発で名乗りを上げたチュオン・ハイ・グループ(THACO)も、政府保証つきの融資と30年間の利払い国家負担を要求していた。資金の最終調達元は民間グループ内で完結せず、政府に負担を強いる構図だ。
フルブライト大学ベトナムのドー・ティエン・アン・トゥアン講師(経済学)は、こうした条件が「巨大な公的債務負担」を生み、企業がコスト管理のインセンティブを失う「モラルハザード」を孕むと警鐘を鳴らす。
日本のODAを「制約」と切り捨てた結果、結局別の形で自国民にツケを回す構図が生まれた。

