「中国依存」が招く問題点
ベトナムが中国を選んだ理由には、一定の論理がある。だが、その選択が合理的だったかは別の問題だ。
中国規格で全長1541キロに及ぶ高速鉄道を一度敷けば、車両から信号システム・電化設備・保守部品に至るまで、すべてが中国仕様となる。
今後数十年をかける運営において、車両更新や部品調達のたびに、ベトナムは中国企業に頼るしかない。規格の採用は、「永続的な依存」を意味する。
アジア経営大学院のアルバート・タン准教授はボイス・オブ・アメリカに対し、中国融資の構造的問題を指摘する。中国企業が建設から保守まで支配権を握る可能性が高く、ベトナム人技術者への技術移転は「ほとんどない」。仮に高速鉄道が完成したとしても、ベトナムはそれを自力で運営する能力を永久に手にできない構図だ。
皮肉なのは、ファム・ミン・チン首相自身が2024年6月、大連での会談で中国側に設計・建設・技術移転の支援を明確に求めていたことだ。だが、タン准教授の分析が正しければ、その願望は構造的に叶わない。中国の鉄道ビジネスモデルは、技術を渡さないことで長期的な収益を確保する仕組みだからだ。
さらに越境路線との「規格統一」を進めれば、将来の路線拡張でも中国以外の選択肢は事実上消える。
日本のODAを選んでいれば……
ベトナムの高速鉄道にとって、別の道はあり得た。
日本のODAを受け新幹線方式を採用していれば、ベトナムは独自の技術基盤を築き、次の路線を自力で広げる足場を得られた可能性がある。
陸続きの中国と規格を統一することは技術的には合理的なようでありながら、政治的・経済的な命運を中国に委ねてしまう危険をはらむ。
そもそも日本のODAと中国融資には利率の面で明確な差がある。
2026年のJICA公表値によると、日本のベトナム向けODAは下位中所得国向けの位置づけとなり、利率は年1.35〜3.60%だ。対する中国の海外融資については、米ウィリアム&メアリー大学の研究機関であるエイド・データが2021年、平均4.2%と分析している。
また、日本は債務持続可能性の低い相手国に大規模融資をしないが、中国はそうした倫理規範に縛られずに融資に動く。現時点では南北高速鉄道について中国が融資を行うという動きには至っていないものの、日本ODAを頼り続けていれば、債務の罠に陥るリスクは相対的に低かったはずだった。
ベトナム人は自分で自分の首を絞めた
日本に20年にわたる協力を求めた末、「ODAには制約がある」と切り捨てたベトナム。
サウスチャイナ・モーニングポストは、シンガポール政府系研究機関のISEAS-ユソフ・イサーク研究所による分析を取りあげ、ベトナム南北高速鉄道の建設費が最大1000億ドル(約16兆円)へ膨張するおそれもあると報じる。ベトナムの2025年名目GDPの実に19.6%に相当する額だ。
自国での資金調達が成功するに越したことはないが、国内での資金調達が行き詰まれば、将来的に債務の罠に陥る可能性も否定できない。
そうなれば、技術移転なき中国規格への依存に陥るのみならず、泥沼化する融資への道をベトナム自ら呼び込んだ形となる。工期中や開業後の安全性も未知数だ。
実績ある日本との協業を求めた市民の声に耳を塞ぐかのように、ベトナム政府は中国に傾きつつある。不可解な選択の代償に、ベトナムはそう遠からず気づくことになるかもしれない。


