乗客は「定員の8%」だけ

こうした紆余曲折の10年を経て、ハノイ初の都市鉄道路線であるカットリン高架鉄道は2021年11月、ようやく開業した。

ハノイは慢性的な渋滞と大気汚染に悩まされており、都市鉄道は渋滞緩和の切り札として待望されていた。

開業日、運輸省幹部は鉄道が「渋滞緩和、自家用車の抑制、環境汚染の削減に貢献する」と胸を張った。サウスチャイナ・モーニングポストの取材に応じた女性乗客は慎重だった。「人々の習慣を変えるには、きっと長い時間がかかることでしょう」

彼女の予感どおりだった。ボイス・オブ・アメリカによると、最初の2週間は運賃が無料とあって賑わったが、有料になると乗客数は1日約1万2000人へ急減した。

人命を犠牲にして敷かれた高架鉄道だが、乗客数は1便あたり平均わずか約60人にすぎず、輸送能力のわずか8%しか運んでいない状態だ。

一方、ホーチミン経済紙英字版のサイゴン・タイムズによると、ホーチミン市メトロ1号線の昨年の年間総乗客数は約2056万人を記録し、運営側が見込んだ目標の121.6%を達成。「乗客は着実に増加しており、市内通勤者が公共交通へとゆるやかにシフトしている」と同紙は評する。

「自動車にすら乗りたくない」という声も

ホーチミンの1号線とハノイのカットリン高架鉄道は異なる都市で運行しており、単純に比較することは難しい。

利用者数で明暗が分かれた大きな理由の1つに、中国側が手がけたカットリン高架鉄道では、周囲の公共交通網への接続面で不利だったと指摘されている。ベトナム政府運営の公式ポータルは、カットリン高架鉄道が本来の能力を発揮するには周辺鉄道網の整備が欠かせないが、現状では他の接続先の鉄道路線を開拓する予算的余裕がないと論じている。

このように、不振に関して単純にすべてを中国に帰結させることはできない。ボイス・オブ・アメリカは対中感情の悪化も原因に挙げている。

こうした地理的・政治的要因が大きく影響する一方、両都市鉄道では安全性への信頼が大きく異なっていることもまた確かだ。

ハンブルク大学人文地理学部のミヒャエル・ヴァイベル氏は、サウスチャイナ・モーニングポストの取材に対し、「ホーチミン市の路線はずっと良い印象を持たれている。日本の技術への信頼度が高いようだ」と現地の印象を伝える。

対照的にハノイ路線についてはヴァイベル氏は、目視でも分かるほど波打った軌道が懸念点だと言及。自分ならこの交通システムを利用するのが怖い、と語った。

高速鉄道への出資に再びビングループが名乗りを上げているとの報道もあるが、同グループの安全面での評判は芳しくない。

同紙の取材に応じた匿名のホーチミン市民は、「正直、ビンファスト(ビングループの自動車部門が製造するカーブランド)に乗ることさえ怖い。ましてビンスピードが関わるであろう高速鉄道など、とても乗れない」と吐露した。

すでに不安材料が多いこの状況において、中国規格で進める判断が果たして吉と出るかは不明だ。

ビンファストのプレミアムセダン「ラックスA 2.0」
ビンファストのプレミアムセダン「ラックスA 2.0」(写真=Alexander Migl/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons