虫歯治療のためにわざわざ中国へ

その後徐々に、往来は盛んになる。2023年9月にはビザなしの団体旅行が再開し、翌年9月にはロシアの一般旅券保持者にもビザ免除が試験的に認められた。

中国の新華社通信によると、2024年に黒竜江省の黒河から国境を越えた人々は約85万人に達した。前年比227%に当たる。

医療ツーリズムが盛んであり、黒河訪問の目的は漢方やマッサージへも広がる。黒河市のある医院では、院内の掲示がすべて中ロ二言語で書かれている。ロシア人患者の急増を受け、2024年に国際外来が新設された。劉雪松院長は新華社通信の取材に対し、同年だけで約600人のロシア人を治療したと明かした。開設初年でこの数だ。

同記事によると、処方した漢方薬は300種を超え、なかにはロシアに薬を持ち帰る患者もいる。20歳のロシア人留学生のメフディエワ・ハリダ氏は、友人に勧められて初めてマッサージを受けたという。新華社通信の取材に、「肩と首の痛みが和らいだ」と語った。同行のリーリャ氏は、「ロシアには中医学に触れる機会がほとんどない。新鮮な体験だ」と話す。

また、ロシアのセルゲイ氏は、歯科治療のためにチェリャビンスクからわざわざ訪れたと語る。

全長600メートルの「黒河愛輝国際夜市」にも足を運んだという彼の目に、蚕のサナギの炒め物が並ぶ屋台が広がる。「夜市が有名だと聞いて来てみた。ここのものは全部好きだ」とグローバル・タイムズの取材に語った。

セルゲイ氏のような訪問客は、もはや珍しくない。同じ夜市を訪れたイリャ氏は、ウラジオストクからもう5度目の訪問というリピーターだ。毎回、中国の品物を袋いっぱいに抱えて帰るという。

夜の黒河市
夜の黒河市(写真=Baycrest/CC-BY-SA-2.5/Wikimedia Commons

深刻化するロシアの中国依存

ウクライナ侵攻直前の2022年2月に両国が掲げた「無制限」のパートナーシップ。だがその後の変容は、米NBCニュース部門のNBCニュースが伝えるとおり、ほぼ中国側に有利な形で進んでいる。

中国の税関統計によると、2022年の中国とロシアの二国間貿易額は、前年比約30%増。ロシアは年初わずか2カ月で、中国にとって最大の石油供給国になった。

西側制裁でドル決済網を断たれたロシアは、人民元に頼るほかなかった。ブルームバーグのデータによれば、モスクワ証券取引所で最も取引される通貨は、いまや米ドルではなく人民元だという。アップルやサムスンがロシアでの事業を縮小すると、小米(シャオミ)などの中国メーカーがすかさずその需要を奪うようにしてシェアを伸ばした。いまやロシアで販売されるスマートフォンの70%超を中国勢が占める。

もっとも、貿易総額が急伸したとはいえ、対等な関係とはほど遠い。ワシントン・ポストは侵攻から間もない2022年6月、ピーターソン国際経済研究所の調査を引き、中国からロシアへの輸出額が侵攻前の水準を大きく下回ったままだと報じた。総額を膨らませているのはロシアの石油や原材料であり、中国は自国製品をロシアに売り込むことには慎重だった。

習近平国家主席が中ロ貿易は新記録を達成するだろうと公約する一方、中国政府はロシア側の支援拡大要請をはねつけていたと、同紙は米中双方の当局者の話として伝えている。

ロシアは一次製品の石油を差し出し、代わりに人民元とスマートフォンを受け取る。「無制限」を謳った盟約の裏で、ロシアは限りなく一方的に中国に依存している。