24時間中、労働は2~3時間
しかしある年に100頭も狩ったりすれば、イノシシの繁殖力は変わらなくても、前の年と同じ500頭を維持することは困難になり、イノシシの数そのものが減ってしまう。そうして十分な食料が確保できなくなれば、ありつけなかった者たちは飢えて死んでしまうよりほかにない。
つまり、狩猟採集民が生きながらえるために賢明な方法は、「その日食べる分だけを得たら、あとは何もしないこと」なのである。
だから、狩猟採集生活をしていたころの人間が働くことに費やす時間は1日2〜3時間くらいだったようだ。それ以外は、だらだらするか、眠るか、たまにセックスするか、くらいしかやることはなかっただろう。生きるために必要なこと以外にできるだけ余計なエネルギーを使わないことは、結果として見れば、極めてサステイナブルな生存戦略だったと言える。
飢えないために農耕を始めた説
西アジアでは約1万2000年前にムギやマメ、長江流域では約7000年前にイネ、黄河流域では同じく約7000年前にアワやキビ、中央アメリカでは約8000年前にトウモロコシの栽培が始まったと考えられている。
いわゆる「農耕」の始まりである。
ただし、中には農耕が始まらなかった地域もある。
たとえばオーストラリアでもアボリジナルは狩猟採集生活を続け、18世紀後半にヨーロッパ人が到達した時点でも農耕は一般化していなかった。
なぜ農耕が始まらなかったのかは一概には言えないが、少なくとも農耕に適した作物が見つかりにくかったこと、そして野生生物が比較的豊富で、飢餓に追い詰められることが少なかったことが理由として考えられる。
農耕は人間が賢くなったから始めたというより、それをしないと生きていけない状況だったことで始まった可能性が高い。
つまり、オーストラリアで農耕が始まらなかったのは、その土地では狩猟採集生活で十分生きていけた、というだけのことかもしれない。
なお、日本列島に大陸から稲作技術が伝わったのは約3000年前だと言われている。これが弥生時代の始まりで、ここから日本も本格的な農耕社会へと移行する。

