同社は11年にタイで洪水被害に遭い工場を再建することになったが、その際、主力商品についてすべてハラル認証を取得することにした。中心となるのは「ポッキー」だ。素人から見ると「えっ、アルコールや豚肉が入っているの?」と思ってしまうが、ラード(豚脂)由来の乳化剤を使用しているので、原料を変更する必要があったのだと堀田氏はいう。
原料を変えても味に変化はない。最も苦労したのは、監査に合わせ、禁止物質(ハラム)を使っていないという「証明」を1つ1つ取っていくことだった。
以前、タイ駐在していた同社海外事業推進部の矢野貴義氏は語る。
「タイなど東南アジアで仕入れる原料はたいてい問題がなかったのですが、日本から一部輸入している原料については、日本のメーカーのハラルに対する認識や知識がまだ乏しく、なかなか証明を出してもらえなかった。そのような場合、独自に検査して証明する必要があり、かなり苦労しましたね」と打ち明ける。
認証を取るためには中身だけでなく、パッケージや工場、生産、梱包、物流までが審査の対象となる。たとえば、「プリッツ」のシンガポール向けのパッケージにビールジョッキがデザインされていたが、これが「アルコールを連想させる」としてデザイン変更することになった。ハラル商品とそれ以外の商品の工場の敷地まで別にしなければ許可が下りないこともあるという。
こうしたことは、日本人にはどうしても理解や想像が及ばないこともあり、審査の過程で改善を指摘されることも少なくないようだ。60年代にインドネシアに進出、認証を取得していた味の素の製品の触媒に豚由来の酵素が使用されていると指摘され、日本人を含む現地社員が警察に拘束されるという事件があったことを記憶している人もいるだろう。
各国の認証機関によって少しずつ基準が異なるので思いがけない“やけど”を負うこともある。味の素はその後、ビジネスを再び軌道に乗せたが、イスラム圏への進出はそれなりのリスクを伴う、ということを考えさせられた事件だったといえる。