世界人口の約2割を占め、出生率も経済の伸びも著しいイスラム圏。東南アジアから、中東、アフリカまで広がる海外の巨大市場に加え、急増する観光客をターゲットに国内市場も動き出した。そんなイスラムビジネスの最前線をレポートする。

京都で広がるムスリム対応

お祈り用のコンパスとカーペットを持つのは総支配人室担当室長・池内志帆氏。

来日するムスリムを対象に積極的にハラル対応をしているのは、日本最大の観光地、京都だ。京都市コンベンションビューローなどが中心となって多数の企業がインバウンドに取り組んでいる。たとえば、ミヤコ国際ツーリストは日本で初めて「ハラールフレンドリーツアー」を企画。ムスリムを随行員にハラルの食事を用意したり、お祈り時間をツアー内に組み込むなどの「ムスリム向け」の手厚い内容で注目を集める。

JR京都駅に直結する「ホテルグランヴィア京都」総支配人室担当室長・池内志帆氏は、キブラ(ムスリムが祈りを捧げるメッカにあるカーバ神殿の方角)コンパスと礼拝用の美しいカーペットを手に取って見せてくれた。

カフェレストラン「ル・タン」のハラルメニュー(上)。ドバイの旅行社と勉強会を開催し、レセプションでハラルメニューを披露(中)。

「ムスリムのお客様が徐々に増え始めましたので、カーペット、キブラコンパス、コーランの3点セットを揃えるようになりました」

あるとき、チェックアウトしてから観光に行き、戻ってきたムスリムの顧客から「お祈りをする場所はないですか?」と聞かれたことがあった。急きょ、空いている宴会場の小部屋を用意、カーペットなども貸し出したところ、「こんなことまでしてくれるなんて感激です」と喜ばれたという。こうした臨機応変で心のこもった「おもてなし」がクチコミで広まっていったのか、同ホテルには富裕層を中心にムスリムの顧客が増えてきているということだ。

今年6月にはロビー階にあるカフェレストラン「ル・タン」でローカルハラル認証を取得した。ローカルハラルとは、ローカルハラル認証発行などを手がけるマレーシアハラルコーポレーションが推奨する「非イスラム国」でのハラル基準のこと。マレーシア通産省・ハラル産業開発公社が認めたハラル監査人の資格を持つ同社がハラルの管理・認定を行う。メニューは「ハラル・洋食弁当」などで牛フィレステーキやチキンのグリルなどもある。事前に相談があれば、できる限り個別対応していく予定で「旅行者はもちろん、京都市内の留学生や在住者にも利用してほしいですね」と池内氏は語る。

(小林禎弘=撮影)
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