「おもろないな~」
今を遡ること12年前、江崎グリコで新チャネルプロジェクトに携わっていた相川昌也(43歳)は、プロジェクト終了時、思わずこうつぶやいた。
当時、インターネット通販やドラッグストアといった新しい販売チャネルが注目され始めていた。新チャネルプロジェクトは、こうした売り場でどのように菓子を売るかを検討課題に据えていた。
相川は、「ポッキー」などの定番商品を小袋に詰めて売る「ピックパックシリーズ」を発案したヒットメーカー。プロジェクトは一応の成果を出しはしたが、いまひとつ満足し切れなかった。
「メーカーはどうしても、モノをどう売るかという発想をしてしまう。この発想自体が失敗のもととちゃうかなと……」
メーカー的な発想を1回リセットし、まったく新しい販売チャネルを創造できないだろうか? 相川は、アンケート調査の実施を会社に提案。小学生から60代後半まで約800人の2週間の生活実態を調査し、どこで菓子と接点を持っているかを調べ上げた。
面白いことがわかってきた。
まず、最大の接点は、予想通り家庭だった。約70%が家庭で菓子を食べていた。意外だったのは、オフィスが第2位に顔を出したこと。19%の人がオフィスで菓子と接触していた。そして、オフィスでの消費には不満が多かった。
「オフィスの場合、夕方になって小腹が空いても、わざわざ買いにはいかないんです」
出勤途上、コンビニで菓子を買い、机の引き出しに忍ばせる人は多い。しかし、一度オフィスに入ってしまうと、買いに出るのは面倒だし周囲の目もうるさい。オフィスは男性社会だから、コーヒーはOKでも菓子は市民権を得ていないのだ。相川はここに、大きな可能性が潜んでいると読んだ。だが、オフィスでどうやって菓子を売ればいいのか……。
「最初に思いついたんは、駅弁スタイルです」
相川は自ら大阪の第一ビルのテナント100社に飛び込み営業をかけ、60社から駅弁スタイルでの販売許可を取り付けた。成約率実に60%である。だが、多くの企業から「お昼時ならいい」「3時のおやつの時間ならOK」「就業時間中はダメだから夕方来て」という制約をつけられた。しかも、購入費用を経費で負担してくれる会社は1社もなかった。
「訪問販売は時間的制約が厳しいし、代金は個々に集めなければいけない。ガックリしましたねぇ」
有望な接点を発見しながら、そこで販売できないというジレンマに相川は悩んだ。大阪駅前第一ビルの裏で、上司の佐藤弘成とともに、黙ってひたすら考えた。2時間近く経ち、タバコも20本は吸っただろうか。ある映像が頭に浮かんだ。野菜の無人販売所……。
「置き菓子で、貯金箱方式や!」
このスタイルなら、難題を一挙に解決できる。調べてみると、野菜無人販売所の代金回収率は90%程度であることがわかった。
置き菓子方式を試験的に実施して手応えをつかんだ相川は、2002年2月、東京進出を断行し、事業の本格展開を始める。自ら推進部のマネージャーに就任し、現在も陣頭指揮を執る。オフィスグリコの急成長ぶりは図に示す通り。大阪・第一ビルへの飛び込み営業から始まったプロジェクトは、いまや営業センター56、“無人販売所”であるリフレッシュボックスの設置数10万8000台。年間売り上げは35億円を突破した。(文中敬称略)
※「置き菓子」はグリコの登録商標