サルマン皇太子に向けられる冷ややかな視線
もっとも、サウジアラビアも軌道修正には動いている。
ミドル・イースト・モニターによれば、ネオムではデータセンターの大規模な整備が計画されているという。事情に詳しい関係者は、「データセンターの整備に向けた大きな追い風となるだろう。海岸近くという立地のため海水による冷却が可能となり、これは大規模なデータの運用に不可欠だ」と合理性を強調する。
ネオム幹部らも、プロジェクトの軸足をAIやデジタルイノベーションの拠点へと移す方針を打ち出した。フィナンシャル・タイムズへの声明では「段階的実施と優先順位付け」を進めていると述べている。
サルマン皇太子自身は昨年9月、サウジアラビアの諮問機関シューラー評議会で「公益のために必要と判断した場合は、いかなるプログラムや目標であっても、廃止または抜本的な修正をためらわない」と明言し、柔軟に計画を調整する姿勢を見せた。
一方、テックジャーナリストのヘスス・ディアス氏は、米ファスト・カンパニーへの寄稿で、サルマン皇太子が失敗をあたかも「戦略的転換」であるかのように言い換えていると指摘。低俗なAI画像を量産するAIデータセンターで冷却ファンが回り続ける光景の方が、「ザ・ライン」や「ネオム」よりもずっと現実味があるとの皮肉で記事を締めている。
サウジ国民を襲う消費増税と圧政
前例のない規模の構想に挑んだこと自体には、意義があったのかもしれない。砂漠の山岳地帯にスキーリゾートを築き、人造湖の水で人工雪を降らせるという、技術と資本の限界に挑む壮大な実験だった。
だが人々は、あまりにも不均衡な形で夢の代償を負担するよう強いられている。巨大事業を描き、推し進めたネオム側に、法的・財務的な責任を問われる兆しはない。反面、ネオム開発の名のもとに故郷を追われ投獄された先住民には、何ら保護も補償も用意されていない。
さらに、国民の負担も課題だ。2020年には原油価格暴落により、日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)が5%から15%に引き上げられた。こうした苦しい状況の中、ネオムを所有する政府系ファンドのPIFが当初から主要出資者として資金を供給してきたが、期待していたほどの民間・外国投資は集まっておらず、PIFに成果を求める圧力は高まっている。ギガプロジェクトへの支出が財政を圧迫しており、さらなる負担が間接的にサウジ国民一人ひとりに降りかかることもあり得る。
砂漠に降るはずだった雪は、幻に終わった。夢を追うためだとして奪われた人々の生命と国民の負担だけが、今も消えない現実として残っている。

