軽視された先住民の命
会計よりもさらに深刻な問題が、ネオムの暗部に存在する。人命の軽視だ。
トロジェナで幹部を務めたアンディ・ワース氏は、英公共放送のBBCの取材に応じている。それによるとワース氏は2020年、着任の数週間前という時点で、先住民殺害の情報を耳にしたという。ネオム傘下のザ・ライン開発予定地で住民の退去を強制し、応じないハウェイタット族のアブドゥル・ラヒム・アル=フワイティ氏が殺害されたとの情報だ。
ワース氏はネオム側に繰り返し問いただしたが、納得のいく回答は返ってこなかった。憤ったワース氏は、「こうした人々に対して何か恐ろしいことが強いられたのだと、強烈に感じた。開発を進めるためといって、ブーツのかかとで人々の喉を踏みにじるべきではない」との言葉を残し、着任から1年足らずでプロジェクトを去った。
BBCの報道によると、サウジ国家安全保障当局は住民の殺害すら内密に許可していたという。
現在イギリスに亡命中の内部告発者、ラビ・アレネジ大佐は、2020年4月付で命令書を受け取った。そこには、ザ・ラインの南わずか4.5キロ、アル・フライバー地区に代々暮らしてきたハウェイタット族が「多くの反逆者たち」であると断じたうえで、こう記されていた。「立ち退きへの抵抗を続ける者は、殺されるべきである」と。
追悼しただけで逮捕される
抹殺の決行日になると、耐えかねたアレネジ大佐は仮病を使い、任務を逃れたという。それでも作戦は、他のメンバーによって予定通り実行された。
作戦により、かねてSNSに立ち退きへの抗議動画を積極的に投稿していたアル=フワイティ氏が命を落とした。
彼は、自宅の土地の査定に来た土地登記委員会の立ち入りを拒んだ翌日、当局に射殺されている。当局は、アル=フワイティ氏が先に治安部隊に発砲したと主張するが、国連やサウジ人権NGOのALQSTは立ち退きに抵抗しただけで殺害されたとみており、見解が食い違う。
立ち退きに抵抗した村民のうち少なくとも47人が立ち退きへの抵抗を理由に拘束され、そのうち多くがテロ関連の罪で訴追された。BBCが報じた2024年5月時点で、40人が引き続き収監中だ。うち5人には、すでに死刑が宣告されている。複数の人物が、アル=フワイティ氏の死をSNSで公に悼んだだけで逮捕された。

