作業員は4時間睡眠、事故も多発

このようにして先住民たちは、土地を奪われた。では、その土地に未来都市を建てるために送り込まれた労働者たちは、どのような処遇を受けているのか。芳しい話は伝わってこない。

ネオムの建設現場で、パキスタン人土木技師アブドゥル・ワリ・スカンダル・カーンがガードレールの崩落で命を落としたと、英中東専門デジタルメディアのミドル・イースト・アイがALQSTの報告をもとに報じている。25歳、2児の父だった。

雇用主の中国企業チャイナ・コムサーブは、適切な補償を行い、監視カメラ映像も提供すると約束した。ALQSTによれば、同社は約束した補償金のごく一部をサウジアラビアのパキスタン大使館に支払ったが、遺族への相談はなく、家族はいまだその資金を手にしていない。カーン氏の遺体を引き取りに、自費でサウジへ渡ったのは兄弟だった。遺族はいま、法的手段に訴えて責任を問おうとしている。

事故は、劣悪な労働環境から生じた。同紙が取り上げた英放送局ITVのドキュメンタリーによれば、ネオムの労働者は法定上限の週60時間をはるかに超えて働かされているという。砂漠の現場まで片道3時間のバス通勤を強いられるが、通勤時間に対して手当は支払われず、眠れるのは毎日約4時間にすぎない。ある労働者は潜入取材した記者に、「休息が足りず事故が多い。先月だけで4〜5件」だと語る。

多くの死が、調べられることすらなく放置されている。米国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチの2024年12月の報告書によれば、同年1〜7月にネオム以外も含めたサウジアラビア全土でバングラデシュ人884人が死亡したが、その80%が「自然死」として処理された。

しぼむ構想、書き換えられる看板

人命を犠牲にしてまで推し進められた計画は、皮肉にも、急速にしぼみ始めている。

ミドル・イースト・モニターはフィナンシャル・タイムズの報道をもとに、ネオムのマスタープランが、「大幅に規模が縮小される」方針だと伝えた。サルマン皇太子が「ビジョン2030」の目玉に据えた巨大計画は、行き先を失いつつある。

サウジアラビアのサルマン皇太子
サウジアラビアのサルマン皇太子(写真=Saudi Press Agency/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

かつて「王国の都市生活の未来」と喧伝されたネオムだが、内部監査により、深刻な工期の遅れと膨れ上がるコストの問題が顕在化した。青写真だけが壮大であり、実態はまるで伴っていない。

トロジェナの行き詰まりは、ネオム全体が迫られている計画縮小のうち、ほんの一例だ。石油価格が低迷するなか、2030年のリヤド万博や2034年のFIFAワールドカップなど、大型事業の準備費用まで重なったことで、サウジアラビアの国家予算は逼迫している。

ネオムを保有する公共投資基金(PIF)はすでに500億ドル超(約8兆円超)を注ぎ込んできたが、成果を形で示せという圧力は強まる一方だ。政府は目先の結果が見込める事業へ予算を振り向け始めている。