「コスト水増し」に異議を唱えた職員の末路

ダム契約が打ち切られるよりはるか前から、トロジェナの建設計画は崩壊していた。

米経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルが入手した内部プレゼン資料によると、2023年秋の見直しでコストは100億ドル(約1兆6000億円)超も跳ね上がった。投資対効果を示す内部収益率(IRR)は、目標の約9%から7%に沈んだ。

この落差を埋めるために、通常ならば現場の経費削減に真っ先に手を付けるだろう。しかしネオムは、収益見込みの水増しに走った。

「創意あふれるグランピング施設」の想定客室料金は、当初の1泊216ドル[約3万4500円(4月28日現在のレート、1ドル159.6円で換算、以下同)]から704ドル(約11万2000円)へと、大胆にも約3.3倍に見込み価格を増額。「ブティック・ハイキングホテル」も489ドル(約7万8000円)から1866ドル(約29万8000円)へと、想定額が約3.8倍に引き上げられた。まだ影も形もないホテルの料金を書き換えるだけで、IRRは9.3%に「回復」した。

「コストについては一切、自ら言及してはならない」。これはネオムでビジョン策定を統括していた幹部アントニ・ビベス氏が、重要会議を前に同僚やマッキンゼーのコンサルタントへ送ったメールの文言だ。

実際、コスト見積もりに異議を唱えたプロジェクトマネージャーは職を解かれたと、ウォール・ストリート・ジャーナルが入手した100ページ超の内部監査報告書に記されている。ネオム自身の取締役会に提出された同報告書では、特定の経営陣による財務の「意図的な操作の証拠」が認定された。

計画立案者が検証者を兼ねる異常事態

収益予測を書き換えて帳尻だけ合わせても、当然長続きはしない。現実に、工事は止まった。

ウィビルド・グループによる3月の情報開示によれば、契約解除の時点で工事の進捗は約30%にとどまり、一方的に契約解除されたことで生じた未施工分の受注残高は約28億ユーロ(約5200億円)に上る。ダム3基と人工湖、ザ・ボウなどで47億ドル(約7500億円)を受注していた。ただしウィビルドは、契約および適用法の規定に基づきネオムが解除に伴う費用を全額補償するため、財務的損害はないとしている。

建設現場に放置された作業用ヘルメット
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トロジェナの親プロジェクトにあたるネオムに関しても、会計上の問題点が指摘されている。

こんな話が伝えられている。ウォール・ストリート・ジャーナルが入手した監査報告書によると、コンサルティング大手マッキンゼーは、ネオム傘下の高級リゾート島「シンダラ」の財務予測について、妥当性の検証を引き受けていた。

だが同社はそもそも、計画立案の段階からプロジェクトに関わっている。自ら描いた計画を、自ら検証する構図だったのだ。しかも、別の顧問会社が検証を断ったことを受け、マッキンゼー自身がこの検証を引き受けたという。

事態が明るみに出た後に監査が行われ、利益相反の疑いがないかさらに調査するよう勧告された。事情に詳しい関係者によれば、マッキンゼーがネオムから受けた報酬は年間1億3000万ドル(約207億円)を超えた年もある。それだけの報酬を得ながらも、同社は利益相反を防ぐ「厳格なプロトコル」があると主張し、「シンダラの統合財務報告書については責任を負う立場にない」と述べている。