父は「おくりびと」を監修した納棺師
映画では、残された人々が葬儀を通じて悲しみに折り合いをつけ、前に進んでいく姿が描かれた。しかし、実際は、故人を悼む気持ちのない遺族や、葬儀費用の負担や相続についていがみ合う遺族の姿も目の当たりにする。美しい救済の物語ばかりではないのが現実だ。
仕事を続けていると、肉体的にも大きな負荷がかかる。遺体に死に装束を着せる、損傷が激しければシャワーで清める、重いドライアイスを運ぶなど力仕事が多く、ひざや腰など関節へのダメージは避けられない。一方、給与相場は月給20~30万円中盤と、心身の負担の大きさに見合う水準とは言えないだろう。
それでも「この仕事を辞めたいと思ったことはない」と話す木村さん。実は、2008年に公開されて社会現象を巻き起こした映画「おくりびと」の監修を務めた納棺師・木村眞二さんを父にもつ。幼いころから自宅で弟子たちに指導する父の姿を見て育ち、大学生になると自らも納棺の現場に立つようになった。
20年近いキャリアのなかで印象に残っているのは、バイク事故で命を落とした16歳の青年の納棺を担当したときのことだ。涙を流して見守るヤンキー風の友人たちに、「ご遺体の硬直が激しいので、お着せ替え前にストレッチを手伝ってくれませんか?」と声をかけた。恐る恐る、筋骨隆々な友の体に触れたヤンキーたちは、「こいつケンカ強かったんですよ」「やっぱ右腕太いな、パンチ強烈だったもん」などと口々に語った。仕上げには、その場にいた一人が持っていたヘアワックスで、青年の髪に生前と同じスタイリングを施した。いつしか、漂う空気はやわらかなものになっていた。
