戦争で最初に狙われるのは通信だ

第3章で見たように、能登半島地震は通信が社会の前提条件であることを改めて浮き彫りにした。しかし、この構造は災害という特殊な状況に限られたものではない。むしろ、より極端な環境、すなわち戦争という状況において、その本質が一層はっきりと現れる。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、まさにそのことを示した出来事だった。

戦争が始まるとき、まず狙われるのは軍事拠点や兵器ではなく、通信インフラであるというのは、これまでの戦争史が示してきた一つの原則である。基地局や交換機が破壊され、光ファイバーが切断されれば、部隊は孤立し、指揮命令系統は断絶する。どれほど強力な兵力を持っていたとしても、それを動かすための情報が届かなければ、戦闘能力は急速に低下する。この意味で、通信は常に戦争の“裏側”にありながら、実際には最も重要な役割を担ってきた。

ウクライナでも同じことが起きた。侵攻初期において、ロシアは通信インフラへの攻撃を行い、ネットワークの分断を試みた。しかしそこで、これまでとは異なる現象が生じる。通信が完全には途絶えなかったのである。その背景にあったのが、スターリンクの存在だった。

スターリンクは地上のインフラに依存しない。基地局が破壊されても、光ファイバーが断線しても、衛星からの通信は維持される。さらに、持ち運び可能な小型端末によって、必要な場所に通信環境を迅速に構築することができる。この特性によって、ウクライナは通信機能を維持したまま戦闘を継続することが可能になった。ここで重要なのは、「通信が残った」という事実そのものではなく、それによって戦場のあり方がどのように変わったのかという点である。

ドローンは圏外ならただの機械になる

まず、指揮統制が維持された。部隊間の連携が途切れず、命令が届き続けることで、戦闘の組織性が保たれた。次に、ドローンの運用が成立した。現代の戦場では無人機が重要な役割を担うが、それはリアルタイムの通信を前提としている。通信がなければ、ドローンは単なる機械に過ぎない。しかし通信が維持されることで、偵察、誘導、攻撃といった機能が有効に機能し続ける。そしてさらに、情報戦が維持された。現地の映像や状況が外部に発信されることで、国際社会の認識や意思決定に影響を与え続けることができた。

ドローンを使用する兵士
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ここで浮かび上がるのは、スターリンクが武器ではないにもかかわらず、戦争の結果に影響を与えうる位置にあるという事実である。より正確に言えば、それは武器の性能や数量を直接左右するものではないが、武器が機能する条件を支えている。この構造を理解すると、戦争の本質が変化していることが見えてくる。従来は火力や兵力の優劣が勝敗を決める中心的な要素であったが、現在ではそれらを有効に機能させるための接続が、同等かそれ以上に重要になっている。