スマホが宇宙と直接つながる意味

とりわけ重要なのが、スマートフォンと衛星が直接通信する「Direct to Cell」である。従来の発想では、衛星通信と携帯通信は別の世界にあった。前者は特殊用途、後者は日常用途という分断があった。しかしこの技術によって、その境界が消え始めている。いつものスマートフォンが、そのまま宇宙とつながる。ユーザーはそれを意識する必要すらない。このとき、通信は「どこでつながるか」という問題ではなく、「どこでもつながることが前提である」という状態へと移行する。

ここで一つ注意しなければならないのは、現時点のスターリンクがすべてを置き換える万能の通信であるかのように語るのは正確ではないという点である。実際には、スマートフォン直結の通信はまずメッセージや緊急用途といった低帯域の領域から始まっており、都市部の高速通信を一気に代替する段階にはない。

だが、この点をもって過小評価するのもまた誤りである。なぜなら、通信の歴史は常に、最も必要性の高い用途から始まり、そこから広がっていくからである。固定電話も、インターネットも、スマートフォンも、最初から万能ではなかった。しかし一度「必要な場面で確実に機能する」という信頼を得ると、それは徐々に生活の全領域へと浸透していく。

スマートシティと通信ネットワークのイメージ
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もはやサービスを超えてインフラである

スターリンクがもたらしている変化の核心は、まさにその「信頼」の領域にある。これまで通信には暗黙の前提があった。都市部ではつながるが、山や海ではつながらない。災害時には途切れることもある。ユーザーはそれを理解した上で、通信を使っていた。つまり通信は「確率的に成立するサービス」だった。しかしスターリンクが広がることで、この前提が揺らぎ始めている。どこにいても、何が起きても、つながる可能性がある。この状態は、通信を「サービス」から「インフラ」へと変質させる。

ここで重要なのは、インフラとは単に便利なものではないという点である。インフラとは、それが存在することを前提に社会が設計されるものを指す。電気があることを前提に都市が作られ、水道があることを前提に生活が営まれる。同じことが通信でも起き始めている。もし「どこでもつながる」ことが前提になるならば、ビジネスも、行政も、災害対応も、その前提の上で再設計されることになる。

このときスターリンクは、単なる通信事業ではなくなる。むしろそれは、他のすべてのシステムが機能するための土台となる。自動運転は常時接続を前提に進化し、ロボットは遠隔操作やクラウド連携を前提に設計され、ドローンはリアルタイム通信を前提に運用される。さらに災害時には、通信そのものが復旧の起点になる。これらはすべて、通信が成立していることを前提としている。そしてその前提を支えるのがスターリンクである。