【茂木】脳科学的に見ても、目標を設定できる人は非常に強いんですよ。前頭葉のビジョンをつかさどる回路が鍛えられますから。それも、よりクリアなビジョンなほどいい。桜のスタンプなど、まさにクリアなビジョン。曖昧に「勉強できるようになりたいな」と思うよりずっと効果的なんです。

【孫】いまでも僕はどちらかというと右脳人間なんですよ。成功したあとのイメージを先に頭に思い浮かべて喜んじゃうんです。「やったー成功した!」って。

2010年にソフトバンクの今後30年間の経営方針となる「新30年ビジョン」を発表しましたが、そのときもまずやったのは、「30年後の未来ってどんなだろう」と想像することでした。30年後の街並み、オフィス、自宅のリビングで最新のデバイスを持っている自分の姿。「こんな素晴らしい未来がきた!」って1人、喜んでいました。

最初に喜んでしまうことのメリットは、その嬉しさがドライビングエンジンとなって、その後の難関が気にならなくなることです。最初に自分の中で成功しちゃっているわけだから、その後どんなに苦労したって、その喜びのために我慢できちゃう。これがもし「いまできるところから始めましょう」なんてやっていたら、到達する前に諦めてしまっているでしょうね。

【茂木】孫さんはよく、「脳みそがちぎれるくらい考える」とおっしゃいますよね。あるビジョンを設定するとき、「これだったら間違いない」という感覚ってあるんですか。

【孫】最初は右脳を使って思う存分、成功のイメージをつかみますが、その次の段階では、そのイメージを実現するための具体策を左脳で翻訳していくんです。「この未来を実現するためにはどうすればいいか」と。そこからはもう、完全に論理の世界です。たとえばボーダフォンを買収したときも、当時はまだiPhoneもiPadも出ていない時代でしたけど、近い将来、それに近しいモバイルインターネット、恐ろしく素晴らしい機能を持った携帯電話の進化バージョンを1人2台、3台と持つ時代がくると僕は確信していました。その携帯をソフトバンクが販売する。「auを抜いて、docomoを抜いて。ついに日本で1番の携帯会社になった!」、そんな日が確実にくるという喜びにふけっておいて、「さて、これを実現するためには、どうしてもボーダフォンを買わんといかんよね」となった。