【茂木】なるほど。きっと周りの方から見ると、もっといっぱい出てくると思うんですけど(笑)、脳科学の立場からすると、「才能」とは一種の偏りです。あるところはすごい突出しているけれど、ほかはもう全然ダメ、という人がいま歴史をつくっているわけです。

【孫】技術競争の世界を見ても、日本は1番、欠陥商品や不具合に対して厳しい国民です。アメリカ人が「新しくておもしろくて魔法のような商品」を求める気質に対して、日本人はちょっとでも傷があろうものなら「欠陥品だ!」と怒って乗り込んでくる。でも、「いささかの欠陥もない」ことばかりを優先していては、世界から引き離されてしまいます。

【茂木】いわゆる、ガラパゴス化ですね。

【孫】商品やサービスにおける安心安全は大切ですが、一方で挑戦し続ける姿勢も大切ではないでしょうか。何事もデビューのときには、失敗がつきもの。やってみて「やっぱりダメ」なこともある。そういう、やんちゃな部分なしに保守的になりすぎると、打つ手打つ手が遅れがちになってしまう。

【茂木】僕もiPad使っていますけど、これはもう人間のエクスペリエンス(経験知)を変えましたね。もはやパソコンが古く感じてしまうんですよ。

【孫】さすがスティーブ・ジョブズですよ。いまから500年後くらいには、スティーブ・ジョブズはレオナルド・ダ・ヴィンチと並び称される存在になっていると思います。彼はビジネスマンとしての才覚もさることながら、それ以上にアーキテクト(設計者、創造者)ですよね。人々のライフスタイルを変えたアーキテクト。

【茂木】スティーブ・ジョブズの言葉に“Real artists ship.”というのがありますね。真のアーティストは出荷すると。単に言葉でいっているだけでなく、実際のモノで世の中を変えていくと。

【孫】そうです。彼が実質的なPCの生みの親であって、コンピュータと人間のあり方を変えたわけですから。音楽と人間のあり方を変え、携帯と人間のあり方を変え、そしていまiPadで情報機器と人間のあり方を変えたわけです。1人の人間の人生で、これほど世界中のライフスタイルを変えた人物なんて、そうはいませんよ。