2010年のベスト経営者に選ばれた孫正義。脳科学者・茂木健一郎との対談は、知の格闘技というにふさわしく、熱を帯び、激しく個性がぶつかった。「ビジョンが現実になる」天才たちの驚くべき発想法が明らかに!

バクテリア以外の生命体がいる理由

【孫】ちょっと生命科学の世界の話になってしまいますが、企業が繁栄を続けるためには、2つのキーワードがあると僕は思うんです。それは「自己増殖」と「自己進化」です。普通の会社はこの「自己増殖」だけを熱心にやっている。たとえばT型フォードという1つのビジネスモデルをつくったら、そのメーン商品をつくり続ける。若干の改良は重ねるとしても、基本的には自動車というものを増産し続けていく。

でも、40億年の生命体の歴史の中で、もしこの「自己増殖」機能しか生命体に備わっていなかったら、この地球上はいまだバクテリアしか存在していません。大切なのは、バクテリア的な「自己増殖」のほかに、「自己進化」というメカニズムなんです。それがあって初めて、種の多様性が生まれる。

そのために「後継者を育成する」ことに特化した育成機関をつくったんです。事業部長とか役員を育てるための教育プログラムなんていらない。後継者育成のためだけの学校。そもそも「アカデメイア」とは、プラトンが国の指導者育成の機関としてつくったものです。

【茂木】しかし教育機関となると、リスクテーカーを育てるのがとても難しくなってくると思うのですが。むしろ優等生的な人ばかりが集まってしまい、危機に立ち向かえる人材が育たない可能性があるのでは?

【孫】見込みのある人には、どんどんグループ会社の経営を任していくつもりです。

【茂木】座学ではなく実践で鍛えると。

【孫】そう。自分が社長になって、その会社の利益を立派に出して成長させていく。そのようにして実践で学んでいく社長が5000社から出てくれば、その中から最終的に全体をオーケストレート(組織化)していける人物が出てくると思います。5000社中、3、4割は上場会社になるとして、そうすればおのずと業績も公開されていきますから、その社長の手腕も人柄もわかってくる。1人の独裁が次代の後継者を決めるようにはならないようにするつもりです。