欧米人は「中国の近くでよかったね」という

【茂木】アンチではなくオルタナティブということですね。アンチはかつての学生運動のように、具体的な解決策を提示するよりも暴力で現状を倒すことにベクトルが向かいがちです。その反対にオルタナティブは1つの解決案を提示する。ジョン・レノンの『イマジン』などまさにそうだと思います。

【孫】これからはアジアの時代です。遠からず中国が世界GDPの中心となり、もはや中国抜きでは何も語れない時代がやってくるんです。その中で中国を敵と見なすか、チャンスと見なすか。

【茂木】たしかに、ヨーロッパやアメリカの人は一様にいいますよね。「日本は中国の近くでよかったね」って。

【孫】たとえば尖閣諸島問題にしても靖国問題にしても、日本人はメディアも含めてすぐに騒ぎたてますけど、あんまり自分で自分のチャンスをなくすような行為はしないほうがいいと思います。ネガティブサイドにばかりスポットを当ててしまうと、先入観で目が曇って自らのチャンスをつぶしてしまう。

【茂木】中国と日本はいろいろ問題を抱えていることも確かですが、古く遡れば漢字や文化など、日本は多くの恩恵を中国から受けてきているのです。中国がこれからも日本の隣人であることに変わりはなく、そこでどういう関係を築いていきたいのか。やはり双方にとって「互恵」を基調とする関係を築くのが本来のあり方なのだと思います。

【孫】そう。どちらかがどちらかの下につくのではなく、お互いが対等にWin-Winのシナリオを描けるように。

僕ね、いまもし坂本龍馬さんが生きていれば、尖閣諸島の問題も「小さい、小さい」といっていたと思うんですよ。「日本の国益とか、中国の国益とか、そんな小さな綱引きしてなんぼのもんじゃ」と。「それより日本と中国一緒になって、何かでっかい開発をやらないか。アジアみんなのためになることを一緒にやらないか」と、きっと提案していたと思うんです。

世界の人口の3分の2はアジアです。これからは間違いなくアジアの時代がやってくる。そのアジアの一員として、日本人は大いに参加して活躍していかなければならないんです。

ソフトバンク代表取締役社長 孫 正義 
1957年、佐賀県生まれ。久留米大学附設高等学校に入学、中退、渡米。81年、ユニソン・ワールド(現ソフトバンク)設立。売上高が2兆円を超え、日本を代表する一大情報通信グループに。
脳科学者 茂木健一郎 
1962年、東京都生まれ。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授。「クオリア」をキーワードとして、脳と心の関係を研究。近著に、『脳の王国』『まっくらな中での対話』など。
(三浦愛美=取材・構成 鷹野晃、小倉和徳=撮影 時事通信フォト=写真)
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