目的は船を止めることではない
この作戦のいやらしさは、物理的にすべての船を止めなくても十分に効く点にある。
4月14日に配信されたロイターの記事によれば、封鎖初日のホルムズ通航量自体には大差がなかった一方で、戦争保険はなお高止まりし、引受条件は48時間ごとに見直されている。
さらに3月6日には、ロイターが、船体戦争保険の料率が平時の約0.25%から3%程度まで跳ね上がったと報じた。インドが保険会社向けに政府保証を検討したのも、4月7日に配信されたロイターの記事によれば、保険料が最大1000%上昇したからだった。
つまり、海峡危機で本当に先に動くのは数量ではない。コストであり、許容リスクであり、契約年限である。調達担当者が「この地域は次も止まるかもしれない」と判断した瞬間、長期契約の相手、保険の付け方、船の回し方、精製所の原油選定が変わる。トランプが突いているのは、まさにこの心理と制度の層だ。
この点で、逆封鎖は「量を止める武器」である前に、「値札を書き換える武器」である。トランプは海峡を閉じたかったのではなく、海峡を通るエネルギーに新しい地政学プレミアムを上乗せした、と市場に読ませる効果を狙ったと考えると筋が通る。
「中東に依存する国」の弱点を突く
米エネルギー情報局(EIA)の発表によれば、2024年にホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセートの84%、液化天然ガス(LNG)の83%がアジア向けだった。
最も影響を受けやすいのは、中国、インド、日本、韓国のような大口輸入国である。日本について言えば、資源エネルギー庁の発表によれば、2023年度の原油輸入に占める中東依存度は94.7%に達している。
対照的に、米エネルギー情報局の発表によれば、2025年の米国の原油輸入に占める中東湾岸の比率は8%にすぎない。
米国は米エネルギー情報局の説明どおり2020年に石油の純輸出国へ転じ、2025年の原油生産は米エネルギー情報局によれば日量1360万バレルの過去最高を記録し、天然ガス生産は米エネルギー情報局によれば日量118.5億立方フィート(Bcf/d)の過去最高を記録した。
液化天然ガス(LNG)でも米エネルギー情報局の発表によれば世界最大の輸出国の地位にある。もちろん価格高騰の打撃は受ける。だが、アジアのように「物が来ない」こと自体が致命傷になりやすい構造ではない。
1970年代の米国にとってホルムズ海峡は、自国が窒息しないために守るべき動脈だった。いまは違う。自国が相対的に身軽になったからこそ、他国の依存の深さがそのまま米国の交渉力になる。かつての弱点が、いまは他国の弱点を管理するテコに変わったのである。
しかも影響は原油だけにとどまらない。液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、ナフサ、ジェット燃料までが連鎖し、化学、電力、航空、物流のコストが一斉に動く。ホルムズ依存の高いアジアでは、エネルギー問題がすぐに産業コスト問題へ変わる。トランプが見ているのは、その連鎖の長さである。

