――今、社員に対しては、どんなことを話しているのですか。

【津賀】私の最大のメッセージは、49事業部はすべてが“対等”であるということです。これまでは松下電器産業があり、松下電工があり、三洋電機があり、パナホームがあるといったように、それぞれが異なる枠組みでスタートし、それをもとに「親子関係」がどうだ、といったことも言われていた。また、従来は陽の当たる事業部、陽の当たるドメインというところに重きが置かれていた傾向がありました。象徴的なものがデジタルテレビです。これからは決してそうではない。事業部のなかには、これらの企業体が混ざり合っており、そうした議論が出る余地がない。そして、事業部が対等に競い合い、Cross-Value Innovationとして連携し合う。そこで新たなモノを生みだしてほしいという期待を表明しています。

これまでのパナソニックには、「立派な会社」「よい会社」という意識が強すぎ、その結果、自ら殻に閉じこもる部分があったのではないか、という反省があります。例えば、事業ひとつをとっても、「これは自分たちがやる領域ではない」と勝手に考えていた部分がありました。かつて私がオートモーティブのビジネスを担当していたときには、カーナビやカーオーディオといった部分はパナソニックの領域だが、走行性や安全性に関わる部分には手を出してはいけないという不文律がありました。

しかし、これは失礼な話です。我々がお付き合いしている相手は自動車メーカーであり、自動車メーカーは、走行性や安全性というところでリスクを冒しているわけです。しかし、パートナーであるべき我々がリスクを冒さないのはどうか。自動車メーカーを相手に、我々は、リスクを取らずに、利益だけを取りにいくのか。それでは、自動車メーカーからソッポを向かれますよ。そこで、自動車に関わるもので、可能性があるのであれば、どんどんやっていこうと、大きく舵を切ったわけです。「いままでのパナソニックのマインドは捨てていい」「事業をやるのならば徹底的にやろう」というのが私の考え方です。私は、パナソニックのこれまでの価値観を、必ずしも良しとはしていません。とくにいまは改革の時期なので、そうした考え方が必要です。

――中期経営計画で、売上高の指標をなくしました。どんな反応がありましたか。

【津賀】売り上げは追わなくていいということは、販売サイドにおいて、大変な意識改革が求められます。しかし、一方で、売れないことの言い訳になりかねない危険性もある。「社長が売らなくていい、と言ったので、売らなかった」という人が出てくるかもしれない。それを言うのは勝手だが、言えばあなたの仕事がなくなるだけ(笑)。売り上げばかりを追って、収益が赤字になってはまったく意味がない。利益は社会貢献の尺度です。1度、身を縮めて、利益ができる形にして、もう1度、どう立て直すのか、どう伸ばすのかを考える時期がいまです。自ら変化を起こす絶好の時期。そこにおいて、従来の価値観で動く必要はありません。

パナソニック社長 津賀一宏
1956年、大阪府生まれ。府立茨木高校卒。79年大阪大学基礎工学部生物工学卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。86年カリフォルニア大学サンタバーバラ校コンピュータサイエンス学科修士課程修了。2004年役員、08年常務役員、11年専務役員、12年4月代表取締役専務を経て、同年6月から現職。
(大河原克行=インタビュー&構成 宇佐美雅浩=撮影)
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