「離職した負け犬は、会社の悪口を言う」
三橋さんは、改めて転職希望者向けのサイトやSNSなどでA社について調べました。小野田さんからはA社の良いところばかり聞いていましたが、A社は近年、大量採用しており、離職率が非常に高いようです。特に他業界からの転職者は短期間で離職しており、使い捨て状態であることがうかがえました。
A社への気持ちが揺らいだ三橋さんは、今回のように簡単に内定がもらえるならA社以外も大丈夫ではないか、X社だけでなくY社や他のエージェントを使って他社もじっくり検討してみたい、と思い始めました。
三橋さんは小野田さんに連絡し、「A社の最終面接に進むべきかどうか、少し迷っている」と相談しました。すると、それまで穏やかな話しぶりだった小野田さんが、突き刺すような冷たい口調で言いました。
「そんなくだらないSNS情報に振り回されてどうするんですか。離職した負け犬は、会社の悪口を言うに決まっていますよ。三橋さんのような未経験者を好待遇で受け入れてくれるのは、私が知る限りA社しかありません。A社が良いに決まっています」
この言葉を聞いて、三橋さんは不信感を持ちました。小野田さんがこれまで親身に相談に乗ってくれたのは、三橋さんのためを思ってではなく、自分の営業成績を上げるためなのだ、と遅ればせながら気づいたのです。
「辞退するなら200万払え」と脅迫される
三橋さんが、「A社と進めるかどうか、少し考えさせてください」と言って電話を切ろうとすると、小野田さんは激昂し、次のようにまくし立てました。
「A社を辞退して、他社を探すつもりですか。もちろん自由ですが、辞退したら200万円を請求させてもらいます。今回の紹介には、三橋さんのトレーニングやA社との関係づくりなど莫大な費用が掛かっていますからね」
この脅迫を聞いた三橋さんは、「もう結構です。お世話になりました」と言って、電話を切りました。早速A社にも連絡して、最終面接を辞退し、考えた末、いったん転職活動を休止し、当面は現在の精密機器メーカーに勤務することにしました。
転職エージェントが求職者から報酬を得るのは、職業安定法に違反します。ということを三橋さんは知っていますが、事を荒立てると今後の転職活動に差し障ると考え、労働基準監督署には通報していません。またX社の小野田さんからは、通報されることを恐れたためか、それ以上は脅迫を受けていません。
三橋さんが被害に遭った転職エージェントによるオワハラは、特殊事例でしょうか。そう願いたいところですが、業界の構造を考えると、特殊事例とは片付けられないように思います。

